「自閉症の子どもって、津軽弁しゃべんねっきゃ(話さないよねぇ)」
ことの発端は、著者の妻の何気ないひとことであった。妻は津軽地域で臨床心理士として、日々自閉症の子どもとかかわっている。妻によると、母親が方言を話していても、方言を話さない子どもは自閉傾向があると見分けることができるのだという。そして、周囲の自閉症にかかわる人たちの間では【自閉症児者は津軽弁を話さない】は共通認識であるとまで主張するのだ。
自閉スペクトラム症(ASD)の話し方が独特であることはよく知られている。一本調子であったり、奇妙なアクセントやイントネーションがあったりする。著者は、この特徴的な話し方が「方言を話さない」という印象を与えているのではないかと解釈した。
大学で発達心理学の講義を持っている著者は、「津軽弁を話さない=自閉症」という間違った情報を広げるわけにはいかないと考えた。こうして、【自閉症児者は津軽弁を話さない】という研究がスタートする。
2007年、著者は青森市とむつ市で発達障害に関する講演をした。その際、参加者に【自閉症児者は方言を話さない】についてアンケートをとった。すると、この噂を聞いたことがある人は4割にものぼり、噂を聞いたことがあるなしにかかわらず、6割以上の人がこれを事実に近いと感じているようであった。
噂がない地域でも、人々は同様の印象を抱くのだろうか? 本格的な調査の必要性を感じていた矢先、著者は秋田県北の特別支援学校から講演依頼を受ける。ここで、地域の方言使用、知的障害(ID)や自閉症・アスペルガー障害(ASD)の方言使用についてアンケートを取ることにした。
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