ハーバード・ビジネススクールのマーケティングの教授、セオドア・レヴィッドは「人は4分の1インチのドリルが欲しいのではなく、4分の1インチの穴がほしいのだ」という言葉を残した。あくまでもドリルは目標達成のために必要な道具であり、欲しいのは「ドリルによってできた穴」だという。しかし厳密には穴ではなく、壁に穴をあけた後に取り付ける棚であり、その棚によってもたらされる清潔感や安心感が、顧客は欲しいのだ。
商品は、受け手が一番望んでいた感情を得るための、単なる一手段でしかない。マーケティングとは、問題解決の手伝いをすることであり、よりよい社会へと導く行為でもある。ゆえに、しつこい営業に見られる「売り込み主導」では成長は見込めない。私たちは、市場の声を聞く「市場主導」へと舵をきるべきである。大切なのは、顧客たちの希望や夢について考え、彼らの不満に耳を傾け、改善できるものに投資することである。
マーケターが発信する多くのメッセージには、「お客様がXをすれば、Yが手に入ります」という約束が隠されている。それは保証というよりも、「これが成功したら、きっとあなたはこうなるはずです」といった類のものだ。たとえば「こだわるママはジフのピーナッツバターを選ぶ」というジフ社の宣伝文句は、ステータスの憧れと承認欲を刺激する約束だといえる。顧客との約束はマーケターが望む変化に直結するため、常に「誰のため?」という問いを大切にすべきだ。
ダンキンドーナッツとスターバックスは、どちらもコーヒーを売っている。だが設立から20年間、スターバックスはダンキンドーナツの客にコーヒーを売っておらず、その逆もしかりである。なぜならスターバックスのターゲットは、コーヒーや時間、お金やコミュニティといったところにゆるぎない信念を持った人たちであり、彼らに特化したブランドづくりをしてきたからだ。
平均的な一般大衆をターゲットにすると、商品の妥協と一般化が必要になってしまう。そのため、まずは成長可能性のある小さな市場の開拓から始めるべきだ。プロジェクトや組織を最小限に凝縮し、体系化する。そして自社のビジネスが生き残れる最小の市場を考え、その市場で注目を待つ“根っこ(エクストリーム)にいる人たち”を見つけ、彼らの求める完璧な答えになるポジションを探し、彼らの望みをかなえるのだ。
起業家のスティーブン・ブランクはスタートアップ企業の唯一のプロジェクトとして、「顧客に集中すること」をかかげている。それは顧客を惹きつけ、顧客が望むものと商品をぴったり合わせる行為を指す。
成長が見込まれる小さな市場において、マーケターたちの役割は、連れていきたい場所にほれ込む人たちを探すことだ。ターゲットではない顧客からの関心につけこまず、「あなたのためのものではありません」と断る意志を持つことは、顧客への敬意となる。重要なのは、プロダクトやサービスのストーリーをもっとも必要としている人たちを変えたかどうかなのだ。
あるコメディアンは、ニューヨークで行われるライブショーに向けて最高のネタを用意したが、誰ひとり笑わなかったことに落ち込んだ。しかし後に、
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