中国では既に「現金0・行列0・待ち時間0」が当たり前になっている。たとえば、ケンタッキーを食べたいと思えば、「ウィーチャット」というアプリを通じて注文・決済を行う。商品ができあがればスマホに通知が届き、レジに受け取りに行く。このような光景がファーストフード店やカフェなど、そこかしこで見られる。そしてこれは、北京や上海といった大都市に限らず、中国の地方都市においても浸透している。ありとあらゆる場所でスマホ決済が行き届いているのだ。
日本でも都市部を中心にキャッシュレス決済は広まりはじめているが、まだ限定的である。日本はつくれても広められない。一方中国は、つくれて広められる。これまで中国ビジネスの肝といえば、資金力やテクノロジーにばかり焦点があてられていた。しかし、中国の「広める力」(マーケティング)はそれ以上に特筆すべきものなのだ。
日本では中国に対して、いまもなお「安かろう悪かろう」のメイドインチャイナのイメージを持つ人が少なくない。モノもサービスも「中国は日本から数十年遅れている」という感覚は、現在でも40代以降の多くの日本人のマインドを支配し続けている。マーケティングの元祖ともいえるアメリカでさえ、いまは中国のエッセンスを学ぼうとしているのだ。日本企業こそ、世界中のどの企業よりも率先して中国に学ぶべきである。
日本と中国は両極端な存在だ。たとえば人付き合いについて、日本と中国は逆の方針で教える。日本では「人に迷惑をかけるな」と教えられるが、中国では「人に騙されるな」と教えられる。他者の言うことを鵜呑みにするのは危険であり、自分や身内の適切な判断を重要視する。美徳についても同様だ。日本では「足るを知る」と言われ、分相応の現状に満足することを良しとする。しかし中国では「もっと上へ」という上昇志向が大切にされ、現状に甘んじることはない。このような教えの違いは人の価値観に違いを生み、ビジネスやマーケティングにも大きな影響を与えていく。
日本のマーケティングは前例主義の積み上げ型だ。よほどの理由と確信がない限り、前例から逸脱したリスクの高い冒険はしない。一方、中国のマーケティングは前例更新主義の飛躍型である。前例についての情報は踏まえた上で、より新しく、より速く、たとえハイリスクであっても当たりの大きい選択肢を採用する。時には「クレイジー」とも称される中国のマーケティングは、まさしく一足飛びの飛躍だ。常識では考えられない速度でプロダクトを広めるマーケティング。これこそが中国の「リープ・マーケティング」である。リープ・マーケティングは、大きく次の戦略で成り立つ。加点型マーケティング、未来型共創マーケティング、ブルーポンド戦略、ブリッツスケールの4つである。そこには3つの階層があり、まず土台となるのは文化と教育を通じて人に根付く「マインド」である。それとノウハウとしての「スキル」によって、4つの「戦略」は効果を発揮できるようになるのだ。
それではこれらの戦略をひとつひとつみていこう。
加点型マーケティングの本質は、尖ったアイデアの特長を伸ばすことで、新規性の高い魅力的なプロダクトへと育て上げる戦略だ。逆に日本では、慎重に時間をかけて角を取っていく減点型マーケティングが浸透している。
世界では、おもしろいアイデアをできる限り早く「最低限の価値を持った商品(MVP)」に仕上げてリリースすることが主流だ。中国はそれを極端に目指しているといえる。
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