アメリカの中間層が消えつつある。アメリカの総所得に占める中間層のシェアは、1970年から2014年の44年間で30%減少した。何が起きているのか。
1970年に起きたのが、実質賃金の上昇の停止だ。第二次世界大戦の終結以来、賃金は経済とともに上昇していた。しかし国民総生産は1970年以降も増加し続けたが、賃金はそうではなかった。経済成長から、賃金が乖離していったのである。では国民経済の差額の部分はどこへ行ったのかというと、それは上層集団に向かったのである。
所得分布で上層にいくほど、ここ数十年の所得の増加は急激だ。このことを踏まえると、「アメリカには二重経済が存在する」と考えるべきである。上層部門を形成する上位20%と、残りの80%が該当する中間層および下層部門である。
マンチェスター大学教授であったW・アーサー・ルイスは、発展途上国の経済を分析する際、そこに二重経済構造を見出した。ひとつの国に2つの部門があり、異なる発展水準、技術水準、需要のパターンによって分断されているとき、この二重経済構造は発現する。この分析モデルを「ルイス・モデル」という。
ルイス・モデルはもともと発展途上国を分析する際に用いられたものだが、現在のアメリカ経済の2つの部門への分断は、そのモデルの趣旨にかなり沿っている。一方の部門は、熟練の労働者と経営者からなり、大学の学位を持ち、まずまずあるいは極めて高い給料を得ている人々である。金融(Finance)、技術(Technology)、電子工学(Electronics)からなるこれらのグループを、ここでは「FTE部門」と呼ぶ。他方は、グローバル化の負の側面に苦しむ未熟練労働者からなる集団で、「低賃金部門」と呼ぶ。
FTE部門には人口の約20%が含まれ、低賃金部門には約80%が含まれる。FTE部門は概ね白人だ。低賃金部門の場合は白人が半分で、残りの半分をアフリカ系アメリカ人やラテン系移民が占めている。
現代において、二重経済の部門間を移動させられる可能性があるのは教育である。しかし、そこには困難が待ち受けている。大学を卒業してもFTE部門に入ることが保証されているわけではないし、教育には長期にわたる支出と資源が必要になる。だが低賃金部門にいる人々は、そうした余裕を持っていない。
そもそもFTE部門は、移行が高くつくようにしてきた。
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