自動車の開発と聞くと、一般的に思い浮かべられるプロセスとは、市場の声を集める商品企画に始まり、デザイナーのスケッチをもとにクレイモデルをつくり、設計者による図面作成、試作・評価、生産準備、量産トライを経て、工場での量産に移行するというものだろう。トヨタ本社地区にある広報施設トヨタ会館の「クルマができるまで」の解説でも、次のような流れで説明されている。
(1)調査企画「クルマはお客様の声から生まれる」
(2)デザイン「クルマのイメージを絵にする」
(3)クレイモデル製作「実物大のモデルをつくる」
(4)カラーデザイン「クルマの色を決める」
(5)設計「クルマの設計図をつくる」
(6)試作車製作「試作車をつくる」
(7)テスト「たくさんのテストをする」
(8)生産「工場で生産する」
(9)輸送「クルマを運ぶ」
(10)納車「お客様のもとへ」
本書では、各工程をどのような部門が担当し、どのように経営の意思決定がなされるのか、開発責任者であるチーフエンジニア(以下、CE)がいかに新製品開発をまとめていくのかについて説明されている。要約では、「商品企画」「デザイン」の工程を取り上げる。
トヨタでは、商品企画プロセスの中に、商品企画と製品企画という2つのプロセスが存在する。商品企画は「商売、営業面から見た車両についての規定」、製品企画は「開発、生産面から見た車両についての規定」だ。それぞれのプロセスには「商品企画会議」と「製品企画会議」という重要なイベントが待ち構えており、そこで経営層の承認を得られなければ次のステップへは進めない。
ここで紹介するのは、「商品企画」の仕事だ。商品企画においては、商品企画部という部門が主体となり、中長期的なラインナップを計画する。主軸車種のモデルチェンジをいつ行うか、拡大する新市場向けに兄弟車や新車名モデルをいつ発表するかといったことだ。
次に、各モデルについて、ターゲット購買層を調査し、購買層の心を掴むセリングポイントを定めるとともに、販売価格帯、販売目標台数などを検討する。そして検討結果を商品企画会議にて上程し、経営層の承認をもらう。承認後、CEと主査が任命され、開発・生産のための製品企画がスタートするという流れだ。
商品企画会議にて任命されたCEの初仕事は、自分が腹の底から納得できるよう、改めて情報を整理することだ。販売部門からの声、品質部門からの指摘、競合他社の新車情報、これから開発する新型車の車両概要(性能、価格帯など)を元に、情報をまとめ上げる。その後、イメージを具体的なデザインコンセプト、性能目標、法規制対応レベル、仕様装備、要素技術へと落とし込み、目標利益額の観点も織り込んで、製品企画会議に向けて準備を進める。
製品企画会議をクリアしたら、次のステップはデザインだ。ここでは、CEのまとめ上げた構想を元に、エクステリア、インテリアの担当デザイナーがスケッチを描いていく。その後、外形カラー、内装ファブリックの検討が始まり、デザインが絞り込まれていく。
ある程度絞り込まれた段階で、クレイモデルの制作に移る。初めは5分の1サイズだが、1案に絞り込まれる頃には実物大のものが出来上がる。この頃には設計や評価部署、生産技術部門とのやり取りが始まり、構造的に成り立つか、性能はクリアするか、量産が可能か、原価は目標内かなど、多くのポイントが慎重に確認される。その後、経営層から意匠承認を得て、それぞれのパーツの設計に移っていくという流れだ。
CEは別名「製品の社長」とも呼ばれる、その製品の責任者だ。組織上は製品開発部門の中の製品企画部に所属しているので、「製品の社長」といえども、自由に好き勝手やれるわけではない。各部門間のスムーズな連携を実現するために、高度な説得力、調整力、リーダーシップが求められる。
製品企画部には、車両ごとにCEをトップとした多数のチームが存在しており、基本的にはCEの下に「主査」が付いている。主査の下にはさらに「主査付き」という課長クラス、係長クラスが4人から6人、大きなプロジェクトでは10人以上割り当てられる。CEがボデー設計出身の場合、主査付きにはエンジン設計や実験の出身者が割り当てられ、バランスが取れた組織体制となるよう配慮されている。CE、主査、主査付き間のチームワークもCE制度での重要なポイントだ。
CEは、具体的にはどのような仕事をしているのだろうか。その一部を紹介しよう。
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