日本製時計メーカーとしては80年ぶりの新会社設立となったKnotを2015年に創業した遠藤弘満が、時計の世界に最初に足を踏み入れたのは、フジテレビが深夜に放送していたテレビショッピング番組「出たMONO勝負」からだった。番組に商品を提供していた遠藤は、ドイツのミリタリー系の時計メーカーSinnを扱う代理店の社長と懇意になったことで、もともとのモノオタクの血をざわつかせることとなったのだ。アメリカで流行していたルミノックスというミリタリーウォッチに展示会で目をつけ、2000年に日本で販売するに至った。
しかし、ルミノックスの成功は、会社を一緒に運営していた先輩と遠藤との間に亀裂をもたらすことになってしまった。遠藤が販売権を取得して宣伝マーケティングまで担当してきたルミノックスに、先輩はそれまでまったく関与していなかった。にもかかわらず、ルミノックスの国内一号店の出店場所を遠藤に断りなく決めてしまったのだ。
遠藤は、ルミノックスを残して会社を去ることを決意する。それに、ルミノックスはテレビや映画の力を借りてヒットしただけの商品だと感じていた。次は経営として成功させると心に決めて、今度は一人でイーコンセプトという会社を立ち上げた。
新しい会社で具体的に何を売るかは決めていなかったが、すでに世界に仕入れのネットワークを構築し国内での販売実績もあった遠藤には、何を売っても上手くいくだろうという自信があった。
そんなある日、かつての部下が『通販生活』の北欧特集で扱う商品を求めて遠藤に泣きついてきた。デンマークのスカーゲンという面白い時計があったことを思い出すが、遠藤は独立してから時計を扱ってはいなかった。ルミノックスを手がけたことで、海外時計ブランドを日本で展開する難しさがわかっていたからだ。しかし、遠藤はスカーゲンの「何か」が気になっていた。結局、それを遠藤自身が仕入れることになる。
多くの業者が輸入しては失敗を繰り返していたスカーゲンであったが、Gショックのような「デカ厚」が主流であった時計市場であえて「薄さ」を強調する戦略が功を奏し、大ヒット商品となった。これが端緒となって、遠藤はほかの通販の販路を拡大していく。
しかしあまりの急拡大に、遠藤の会社単体では仕入れの資金が回せなくなっていた。そこで、かねてより遠藤の才能をかっていたエムズ商事に資金面で支援してもらうことになる。そして2005年、イーコンセプトとエムズ商事は合併してフューチャー・コモンズ社となり、遠藤はその代表に就任した。スカーゲンは日本で年間10万本を売り上げる巨大ブランドに成長していった。
そんななか、不吉な兆候が訪れる。スカーゲンの経営トップが変わり、遠藤と取引をしていた人物がお払い箱となったのだ。ドイツの代理店契約も解消となっている。次は遠藤の番かもしれない……。
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