著者、マーク・ベニオフが1999年春にセールスフォースを創業したとき、自分の成功の尺度とは、従業員がそれぞれの仕事にどれだけ意味を見出せるかにあると考えていた。従業員が毎日出社して、自分のしている仕事が本当に大事だ、自分が頑張ることで会社の利益以外のことにも貢献できると感じられるような企業文化をつくることが最優先だった。
加えてセールスフォースには、世界クラスのインターネット企業となり、セールスフォース・オートメーション(SFA、営業支援システム)のリーダーになるという大きなビジョンがあった。当時は、利益を上げるか、変化を起こすプラットフォームになるか、企業はどちらか一方を選ばなければならないと考えられていた。だがその2つはトレードオフではないのだ。
今や企業は、単に利益を上げるだけでなく、社会が直面する重要な問題に対処するために行動することも求められている。実際、セールスフォースは、「1-1-1」モデルとして、非営利団体や慈善団体を支援するために製品の1%、株式の1%、就業時間の1%を寄付する活動を行っている。
不平等の増大や環境保護への関心の高まりなど、グローバルな課題に取り組み、私たちの世界をより良いものにするために、ビジネスはその性質を変えていかねばならない。地球の行く末は、私たちの肩にかかっている。
セールスフォースがサービス実践者向けのイベントを企画したとき、自社に戻ってセールスフォースのソフトウェアを実装し、広めてくれる開発者のことをどう呼ぶかで議論となった。彼ら彼女らはセールスフォースのために働き、偉大なイノベーター、エバンジェリスト(伝道者)として活動してくれている人たちだ。
イベント企画を任せた社員に意見を求めると、「私たちはトレイルブレイザー(開拓者)と呼んでいます」と教えてくれた。その呼び方には、「恐れずに探求し、イノベーションを切望し、楽しみながら問題を解決して社会貢献もする、文化と多様性を大切にする人々」というイメージが込められているのだという。
著者は正直、すぐにはピンと来なかった。だがフタを開けてみると、その言葉は従業員、顧客、パートナーなどの間で大いに歓迎された。トレイルブレイザーとプリントしたパーカーをつくったところ、あっという間に売り切れてしまったほどだ。
テック業界において、成功する企業は継続的にイノベーションを生み出している。実際、セールスフォースにおいても、イノベーションはコアバリューの中で最もビジネスの成功に直結していた。だからこそ、21世紀を代表する技術になるはずのAIを、セールスフォースがいかに活用するかを考える必要があった。
2015年夏、著者は、セールスフォースの全製品にAIを組み込む全社プロジェクトを始めることを伝え、エンジニアたちを会議室に呼び出した。つくりたいのは、法人向けAIツールだ。コードを書かなくても簡単にカスタマイズでき、ノートパソコンやスマートフォンで数十億人の顧客とのやり取りを処理できるもの。誰もなし遂げたことのない、それまでで最も野心的な課題だった。しかしこれは、AIにセールスフォースの未来があるかどうかという問題ではなく、セールスフォースに未来があるかどうかの問題だった。
リスクの高い構想は、ストレステストのようなものだ。常に自分たちのバリューを疑いたくなるし、手綱を緩めたくもなる。しかし多くの場合、企業文化の中にバリューをさらに深くたたき込んでいけば、目を見張るような新しい洞察につながる。
2015年3月、上級管理職であるシンディ・ロビンズと上級幹部であるレイラ・セカが、著者の自宅にやってきた。その表情は暗い。
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