ディスラプターの事例を紹介する前に、まずはイノベーションについて考察する。『イノベーションのジレンマ』の著者クレイトン・クリステンセン氏は、イノベーションには2つの種類があるとした。
1つ目は持続的イノベーション。既存の顧客満足のために、現製品サービスを改善するというものだ。
2つ目は破壊的イノベーションである。新しい技術やアイデアで、現業界の構造を破壊するというものだ。
さらにクリステンセン氏は、破壊的イノベーションをさらに2種類に区別した。そのイノベーションが「新しい市場に、新しい価値を提供しているもの(新市場型)」なのか「既存の市場でコストダウンを実現しているもの(ローエンド型)」なのかである。
著者はこれをもとに「価値創造タイプ(新市場型・破壊的イノベーション)」と、「価格破壊タイプ(ローエンド型・破壊的イノベーション)」という2つの視点で、世の中のイノベーションを整理していく。
価値創造タイプの好例はソニーのウォークマンだ。「外で、気軽に、歩きながら音楽を聴く」という新しい価値の提供に成功した。一方、価格破壊タイプの好例といえばユニクロだ。びっくりするような安価で服が買えるという「アハ・モーメント(熱狂的なファンを生み出す驚きの瞬間)」の提供に成功している。
そして、著者はイノベーションのタイプに加え、もう1つ「何によってイノベーションを起こしているのか」という視点によって、次のような3つの型に分類する。
(1)プラットフォームで需要と供給をつなぐもの(プラットフォーム型)
(2)ビジネスモデルで常識を超えた顧客体験を生むもの(ビジネスモデル型)
(3)模倣しにくい独自の技術を強みにするもの(テクノロジー型)
こうしたタイプと型の分類によって、最新のスタートアップのトレンドを俯瞰的に理解することができる。次からはプラットフォーム型、ビジネスモデル型、テクノロジー型というそれぞれの型に当てはまる企業の一部を紹介する。
サービス:P2Pレンディングによる学生ローン
事業の着眼点:先輩が後輩にお金を貸すしくみを作る。
SoFiの事業は名門大学の学生に、その大学のOBが融資をするという価値破壊型のサービスである。貸し手と借り手を直接繋げることで、従来の銀行ローンに比べ、低金利を実現している。
P2Pレンディングというサービス形態はそれほど目新しいものではない。それでも事業が成功している要因として、次の2つが考えられる。
1つは、「借り手と貸し手のマッチング」の工夫だ。ターゲットを「今はまだお金を持っていないけれど、将来的に稼ぐだろうと思われる高学歴な学生」に絞っているのが斬新といえる。金融の原則から見ても、名門大学の学生は高収入の職業に就き、返済する可能性が高い。よってターゲットとして理にかなっているわけだ。
もう1つの成功要因は、事業に「母校の後輩を支援する」というストーリーを乗せている点である。アメリカでは、自分が卒業した大学に「恩返しする」「寄付をする」ことは自然な行為だ。そのため、比較的低金利で融資を集めることに成功した。こうしてこのモデルはその後も展開し、数十校へと広がっている。
サービス:不動産のオンライン買取販売
事業の着眼点:不動産をオンラインで買い取る。30日以内なら返金可。
Opendoorは、不動産業界にもテクノロジーの波が押し寄せていることを実感させるような、価値創造型のサービスである。特筆すべき点は、業界でいち早く「iBuyer」を取り入れたことだ。iBuyerとは、価格査定アルゴリズムを活用して売り手から直接物件を買い取り、その後転売するビジネスモデルのことだ。従来のプロセスでは査定・内見・交渉など、まどろっこしい手順を踏む。そのため一般的に売却まで2カ月~半年かかっていた。しかし、iBuyerを活用すれば、査定開始から数日後には買取価格が売り主に提示される。「早く現金化したい」という人にとっては非常にありがたいサービスだ。
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