Spotify

新しいコンテンツ王国の誕生
未読
Spotify
出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2020年06月18日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「Spotify(スポティファイ)」をご存知だろうか。数ある音楽ストリーミングサービスのなかでも、破竹の勢いで成長している企業だ。いまやアップルやアマゾン、グーグルといったIT業界の巨人たちも、スポティファイと同じような音楽ストリーミングサービスを提供するようになった。だがスムーズな再生や秀逸なプレイリスト作成、センスの良いシャッフルといった「感覚に訴える気持ちよさ」では、スポティファイがいまだ一歩抜きん出ていると言っていいだろう。

スポティファイの創業者ダニエル・エクは、5歳にしてパソコンを使い始め、11歳のころには周りの大人に「ビル・ゲイツよりもビッグになる」と言っていたという。彼がもっとも影響を受けたのはファイル交換ソフト「ナップスター」だ。

じつはスウェーデンには、ナップスターと同様の機能を持つ「カザー」というソフトを開発した、伝説的な起業家が存在する。ニクラス・センストロームというその人物は、カザーと同様にP2P技術を用いてインターネット通話サービス「スカイプ」を開発し、世界中に普及させた人物でもある。ダニエルがP2P技術を用いてスポティファイを開発し、世界的な成功を収めることができたのは、そのような自国の得意な技術を最大限に活用したこと、そしてIT起業家を育てる支援者たちの存在があったからだ。

スウェーデンという小国発のサービスがITの巨人たちに打ち勝っていく物語は、読んでいて単純にワクワクするだけでなく、自分の強みにフォーカスすることの重要さを教えてくれる。いま大きなビジョンを胸に抱いているビジネスパーソンや、「小よく大を制する」手法を学びたい方は、本書の1行1行を噛み締めてみてはいかがだろうか。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

スベン・カールソン(Sven Carlsson)
1986年生まれ。高校時代をモスクワで過ごし、ジャーナリストを目指す。2009年イギリスのノッティンガム大学で北米学と歴史を学ぶ。2014年、アメリカのコロンビア大学でジャーナリズムの修士課程を修了後、AFP通信や経済新聞『SVDビジネス』で勤務。2016年、ストックホルムの日刊経済紙『ダーゲンス・インダストリ(Dagens industri)』でアメリカでのスポティファイ株式公開を取材。その他、ウーバー、サウンドクラウドなどのテクノロジー企業を中心に取材している。

ヨーナス・レイヨンフーフブッド(Jonas Leijonhufvud)
1974年生まれ。1998年より金融ジャーナリスト。2000年にジェフ・ベゾス、2008年にスポティファイ共同創業者のマルティン・ロレンツォンをインタビュー。経済新聞『SVDビジネス』、日刊紙『ダーゲンス・ニーヘーテル(Dagens Nyheter)』、テレビ局「TV8」「TV4」での勤務経験もあり、そこでは受賞歴のある人気番組「Historieätarna」も担当。

現在ふたりは記者として、日刊経済紙『ダーゲンス・インダストリ』と同紙デジタル版で活躍中。また、ふたりは同紙のポッドキャスト番組「Digitalpodden」にも出演している。

本書の要点

  • 要点
    1
    スポティファイは音楽を「一瞬で、簡単に、無料で届ける」という触れこみで、多くのユーザーを獲得した。しかしスティーブ・ジョブズの目が光る米国市場への参入には時間を要した。
  • 要点
    2
    米国市場への参入を果たした後も、IT業界の巨人たちが次々に対抗サービスをぶつけてきたり、買収を図ったりしてきた。こうした重圧をくぐり抜け、スポティファイは創業10年で株式公開を果たした。

要約

秘密のアイデア

マルティン・ロレンツォンとの出会い

スポティファイの創業者ダニエル・エクは、専門学校を卒業後、ネット広告を最適化するアフィリエイト・マーケティングを行うトレードダブラーに入社した。そこできわめて優秀な技術者として頭角を表すとともに、運命的な出会いを果たすことになる。マルティン・ロレンツォンとの出会いだ。彼はスポティファイの創業と成長を支え、ダニエルの唯一無二のパートナーとなった人物である。

ダニエルは当時20歳そこそこで、マルティンとは14歳も離れていたが、ふたりはすぐに意気投合した。ダニエルとマルティンは、中央のサーバーを経由することなく利用者のハードディスクに直接ファイルが配信されるP2Pテクノロジーに将来性があると見込み、このテクノロジーとコンテンツを組み合わせたビジネスアイデアを温めていた。

聞き間違いから生まれた「スポティファイ」
fatido/gettyimages

トレードダブラー社を退社したダニエルは、その後コンサルタントとして働きつつ、自宅アパートにサーバーを構え、秘密のアイデアを検証していた。ただパートナーのマルティンと新たな会社と立ち上げることには同意しつつも、次の一歩をどう踏み出すかで逡巡していた。

転機は、トレードダブラーが上場を果たしたことだった。創業メンバーだったマルティンは11億円あまりを手にし、ダニエルのアイデアに1億円あまりのスタート資金を提供すると提案してきたのだ。

起業となれば、問題は社名だ。マルティンはダニエルがアパートの反対側の部屋から「スポティファイ」と叫んだのを耳にし、この言葉を誰もドメイン名に使っていないことを確かめ、社名にすることに決めた。

当のダニエルは「マルティンの聞き間違いではないか」と語っており、そんな記憶はないという。とはいえふたりは名前を気に入り、いまではスポティファイのことを「何かを見つける場所」という意味の「スポット」と、「特定する」という意味の「アイデンティファイ」を組み合わせた造語だと説明するようになった。

「待つなんてクールじゃない」

ダニエルとマルティンは、2006年4月にスポティファイを起ち上げる。スティーブ・ジョブズが音楽販売サービス「iTunes」を発表してから3年後のことだ。

ダニエルとマルティンは優秀な技術者を集め、明快な指示を出した。高速で音楽再生を可能にし、音楽を蛇口から出る水のようにすること。ダウンロード待ちで再生が遅れるのは許されない。「待つなんてクールじゃない」が合言葉だった。

技術チームは0.2秒で曲が始まると、人間は「すぐに再生された」と認識することを発見した。問題は、音楽データをどのように切り分けるかだ。

試行錯誤の末、彼らはとうとうエレガントな解決策を見出した。従来は食パンの如く縦に切り分けていたデータを、ハンバーガーのように横に切り分けるのだ。この改変により、断片がストリーミングされている最中でも、すぐに再生を始められるようになった。

向かうところ敵だらけ

一瞬で、簡単に、無料で
martin-dm/gettyimages

当時の音楽業界では、違法コピーサイトの横行とその取り締まりのいたちごっこが続いていた。スポティファイから見ると、違法コピーサイトはライバルであり、ダニエルはそれらより軽く動く、もっとよい商品を作りたいと考えていた。

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要約公開日 2020.10.17
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