スポティファイの創業者ダニエル・エクは、専門学校を卒業後、ネット広告を最適化するアフィリエイト・マーケティングを行うトレードダブラーに入社した。そこできわめて優秀な技術者として頭角を表すとともに、運命的な出会いを果たすことになる。マルティン・ロレンツォンとの出会いだ。彼はスポティファイの創業と成長を支え、ダニエルの唯一無二のパートナーとなった人物である。
ダニエルは当時20歳そこそこで、マルティンとは14歳も離れていたが、ふたりはすぐに意気投合した。ダニエルとマルティンは、中央のサーバーを経由することなく利用者のハードディスクに直接ファイルが配信されるP2Pテクノロジーに将来性があると見込み、このテクノロジーとコンテンツを組み合わせたビジネスアイデアを温めていた。
トレードダブラー社を退社したダニエルは、その後コンサルタントとして働きつつ、自宅アパートにサーバーを構え、秘密のアイデアを検証していた。ただパートナーのマルティンと新たな会社と立ち上げることには同意しつつも、次の一歩をどう踏み出すかで逡巡していた。
転機は、トレードダブラーが上場を果たしたことだった。創業メンバーだったマルティンは11億円あまりを手にし、ダニエルのアイデアに1億円あまりのスタート資金を提供すると提案してきたのだ。
起業となれば、問題は社名だ。マルティンはダニエルがアパートの反対側の部屋から「スポティファイ」と叫んだのを耳にし、この言葉を誰もドメイン名に使っていないことを確かめ、社名にすることに決めた。
当のダニエルは「マルティンの聞き間違いではないか」と語っており、そんな記憶はないという。とはいえふたりは名前を気に入り、いまではスポティファイのことを「何かを見つける場所」という意味の「スポット」と、「特定する」という意味の「アイデンティファイ」を組み合わせた造語だと説明するようになった。
ダニエルとマルティンは、2006年4月にスポティファイを起ち上げる。スティーブ・ジョブズが音楽販売サービス「iTunes」を発表してから3年後のことだ。
ダニエルとマルティンは優秀な技術者を集め、明快な指示を出した。高速で音楽再生を可能にし、音楽を蛇口から出る水のようにすること。ダウンロード待ちで再生が遅れるのは許されない。「待つなんてクールじゃない」が合言葉だった。
技術チームは0.2秒で曲が始まると、人間は「すぐに再生された」と認識することを発見した。問題は、音楽データをどのように切り分けるかだ。
試行錯誤の末、彼らはとうとうエレガントな解決策を見出した。従来は食パンの如く縦に切り分けていたデータを、ハンバーガーのように横に切り分けるのだ。この改変により、断片がストリーミングされている最中でも、すぐに再生を始められるようになった。
当時の音楽業界では、違法コピーサイトの横行とその取り締まりのいたちごっこが続いていた。スポティファイから見ると、違法コピーサイトはライバルであり、ダニエルはそれらより軽く動く、もっとよい商品を作りたいと考えていた。
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