東京でオンラインによる在宅ワークを導入している企業は、2019年の段階では2割に満たなかった。しかし現在(2020年6月執筆当時)は、6割ほどまでに増加している。まさに新型コロナによる強制進化によって、オンラインとオフラインの主従関係が逆転したかたちだ。
その結果、多くの人が仮想空間(在宅やサテライト)でも仕事はできると気づいた。実際、日本生産性本部が20歳以上の雇用者約1100人を対象に調査をしたところ、全体の6割程度の人が「新型コロナ収束後も、このまま在宅ワークを続けたい」と答えている。
わたしたちの仕事と生活の空間は、リアルな物理空間から仮想空間へと着実にシフトしつつある。
物理空間上での仕事は、参加者全員が同じ時間かつ同じ場所に集まることを前提にしている。打ち合わせはその代表例だ。その結果、集まる時間を調整したり、移動の時間を確保したりする必要が生じてしまい、1時間という時間の単位が社会を同期させるためのリズムになっている。
仮想空間は、この1時間という単位から私たちを解放してくれる。これからは打ち合わせの中身も、事前にチャットなどで意見交換をして、どうしても必要なことだけ仮想空間上で会議すればいい。いきなり本質的な話に入る「ホットスタート」を切ることができるだろう。また、有益な意見を出さない「ただ参加しているだけ」のような人がいなくなるので、どんどん話し合って物事を決めていけるようになるはずだ。
このように、仮想空間へのシフトは、仕事の生産性をはるかに上げてくれる。
仮想空間では、雰囲気や細かなニュアンスなど、どうしても伝わりきらない部分も出てくる。そのような状況で的確に意思決定を行うためには、ベースとなる人間関係が重要になる。
現在、仮想空間でうまくいっているケースも、これまでの人間関係の蓄積があったうえで、物理的な制限がなくなったぶん効率的になっただけなのかもしれない。言ってしまえば、今までの物理空間で築き上げてきた「貯金」で食いつないでいるだけの可能性がある。
したがって、この「空気が読みにくい」というコミュニケーション上の問題が顕在化してくるとしたら、徐々に人間関係が希薄になっていく来期以降だ。オンラインによる仕事を定着させるためには、しばらく注意が必要だろう。
急速な仮想空間へのシフトは、社会の仕組みがミレニアル世代(1981年生まれ~)やZ世代(1996年生まれ~)のようなデジタルネイティブの価値観に近づいたことを意味している。
こうした世代の若者について、「草食化している」とか「ハングリーさが足りない」などと上の世代の人は評価しがちだ。
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