著者はこれからの世界をリードする人材を「クリエイティブ・リーダー」と呼び、次のように定義する。「自らの得意分野や個性を磨き、存在しない世界を妄想して、各国の仲間と協働しながら、のびやかに新しい価値を生み出す創造性にあふれたリーダーシップを発揮する人」――このような素晴らしいリーダーは、どのようにしたら育成できるのか。
自らも2人の子育てをする著者は、新しいリーダー像について強い関心を抱くようになり、100校を超える欧米やアジアのトップ校・先端校の実践を学んできた。そこでたどりついたのが、1人ひとりの興味に合わせて心身頭(ハートボディマインド)を統合的にバランスよく育む「ホール・チャイルド・アプローチ(Whole child approach)」という考え方である。
ホールというのは「丸ごと」という意味だ。子どもたちの心身頭すべてに働きかけることで、その子らしく、健やかに成長することを目標としている。めざすのは、子どもたち1人ひとりが自分を知り、多様な他者の視点に共感する力を身につけて、自分なりの方法で社会に貢献すること、すなわち普遍的な人間力を育てることである。
このアプローチで重視されるのは、狭い意味での学力ではない。豊かな人格や態度、価値観など、いわゆる「非認知能力」である。非認知能力にはさまざまな分類があるが、学校教育の文脈では、スキルや行動、特徴、マインドセット(心の持ちよう)、態度(モチベーションや意思)などが重視される。
これに対し、教科ごとの学びや単元の履修、テストの点数といった狭い意味の学力は「認知能力」と呼ばれる。この2つは対立するものではなく、非認知能力は認知能力のパフォーマンスに影響を与えると言われている。
非認知能力の代表的なものとして、「自己調整力」と「グリット(やり抜く力)」が挙げられる。いずれも生涯に影響を及ぼす、重要な能力である。自己調整力とは、短期と長期の目標との整合性がとれるように、自らの言動を調整する力であり、自己の感情や行動をさまざまな誘惑のなかでコントロールする力である。一方でグリットとは、ひとつの大きな目標に向かって、困難な状況を乗り越えていく力を指す。
ホール・チャイルド・アプローチに、定型の教育法があるわけではない。子どもたちの心身頭をバランスよく育むという目標に向かって、さまざまな手法が試みられている。
米国ではカリキュラムの自由度が高い私立校、それもトップレベルと言われる学校で先行しているため、ホール・チャイルド・アプローチは一部のエリート層の育成をめざしたものと思われがちだが、そうではない。たとえばジョン・F・ケネディも通っていた名門校の校長は次のように述べている。「移住用の幌(ほろ)馬車に乗った西部開拓者の場合だろうと、1920年代に南イタリアからやって来た移民のケースだろうと、アメリカには懸命に働いて本物の気概を示せばきっと成功者になれるという考え方が常にあった。おかしなことに、いまの私たちはそれを忘れてしまっている」
そして次のように続けている。
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