2018年8月は、米中関係が変わるひとつのターニングポイントとなった。米国は安全保障を理由に、中国の通信機器メーカーであるファーウェイ製品を、政府機関や関連組織で利用することを禁じた。さらには、同社への半導体などの輸出も事実上禁じている。
通信機器において世界シェア30%を占めるファーウェイだが、それでも一民間企業にすぎない。なぜ米国政府は、ここまで厳しい制裁を課すのか。それは中国政府による軍民融合の方針から、通信ネットワーク上でスパイ行為を行う恐れがあるからだ。加えて、国家の覇権に技術が影響を与えてきたという歴史的経緯と、これまで以上にデジタルテクノロジーが影響力を発揮するという予測も関係している。
テクノロジー覇権を守るため、なりふり構わない米国の姿がそこにはある。
1957年、米国と西側諸国にスプートニク・ショックが駆け巡った。旧ソ連が人類初の人工衛星、スプートニク1号の打ち上げに成功したのだ。これは、米国が旧ソ連に遅れを取ったことを意味していた。
翌年、米国では現在のNASA(米国航空宇宙局)とDARPA(国防高等研究計画局)が組織された。DARPAはインターネットの生みの親と言われているが、ドローンやGPS、ステルス技術、音声認識や翻訳技術などの研究も古くから手掛けている。
DARPAで革新的なイノベーションが生まれる理由は、プログラムを監督するプログラムマネージャの高い自由度にある。数年間、独裁的に資金や権限を采配できるのだ。この手法は、現在のスタートアップ企業に近いものといえる。
マイクロソフトの元CEOであるビル・ゲイツ氏は、パソコン業界をいまよりも支配していた時代に、「もっとも恐れている競合は?」という質問に対して、「どこかのガレージでまったく新しいものを考えている誰か」と答えた。その懸念は現実のものとなった。1998年創業のグーグルは、翌年にはベンチャーキャピタルが30億円を投資する企業になっていた。
インターネットの黎明期から、DARPAのような政府機関、起業家が技術を学んだ大学、リスクをとるベンチャーキャピタルが一種の生態系をつくり、巨大デジタルテクノロジー企業の成立に寄与している。たとえば代表的なベンチャーキャピタルであるセコイアが投資した企業の時価総額は、合計でおよそトヨタ6つ分だ。ベンチャーキャピタルはツイッター、フェイスブック、Uberといったプラットフォーマーを生み出し、既存の産業構造を変えていった。
2007年、人口130万人の電子立国エストニアが大規模なサイバー攻撃を受けた。これにより、デジタルテクノロジーに関する安全保障は新しい次元に入った。サイバー攻撃はこれまでの軍事行動に比べ、きわめてコストが低く、匿名性の高い攻撃手段だ。
デジタルテクノロジーの隆盛によって、国家間の紛争は平時とも有事とも言えないグレーゾーンの紛争へと姿を変えつつある。サイバー攻撃によって威嚇したり、デマ情報を流して他国に干渉したりすることは、もはや日常茶飯事である。
サイバー攻撃に武力で応じることは可能か。日本政府の見解は、
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