勝負事の勝ち負けは敵と味方の「力」関係で決まる。ビジネスの販売競争における「力」を定義したものが、F・W・ランチェスターが提唱するランチェスター法則だ。
これには2種類がある。第一法則は、1対1で戦う接近戦をする際に適用される。武士が刀剣をもって、限られた地域での局地戦に臨むシーンをイメージするとわかりやすい。一騎打ちなので、第一法則では、戦いの質の要素である武器性能と、量の要素である兵力数とをかけた結果が戦闘力となる。すなわち、同じ武器やスキルを持っているのであれば、兵力数の多い方が勝つ。兵力数が少ないとしても、腕前が優れていれば勝てる。とても単純な理論だ。
織田信長と豊臣秀吉の戦い方に当てはめてみよう。鉄砲という新しい武器や長槍のイノベーティブな使い方で兵力差を埋めた信長と、情報力を活かし常に敵の数倍の兵力数で戦った秀吉は、正にランチェスター第一法則に沿った事例だ。
ビジネスに置き換えると、目指す「戦闘力」は競争力だろう。「兵力数」は、営業担当者数や小売店の売場面積といった営業力、販売力である。また「武器性能」は、商品力やサービス品質、営業担当者のスキルだろう。ただ、武器は多様で数値化が難しい。そこで、顧客が商品を選ぶ基準(機能や付加価値、価格等)でライバルと自社を比較することで、勝敗を分けるポイントを見出す。これを重要成功要因という。
第二法則は、接近戦ではなく「集団対集団」を想定したものである。機関銃など多数を攻撃する「確率兵器」を使い、広範囲で敵と離れて戦う近代戦に適用される。第二法則では、武器性能に兵力数の2乗をかけた結果が戦闘力になる。兵力数が相乗効果を発揮するからだ。3人対5人であれば、「3の2乗=9」対「5の2乗=25」で9人対25人となる。その差は歴然だ。
兵力差が埋めがたい差となるため、情報の重要性が増す。ビジネスにおいても、敵と味方の力関係を把握して勝てる土俵で戦わないと、経営資源を無駄に垂れ流すことになってしまう。
2つの法則から、企業の競争力は局地戦の場合は「武器性能×兵力数」、広域戦の場合は「武器性能×兵力数の2乗」になるとわかる。では、兵力数が少ない小さな会社は大きな会社にどうすれば勝てるのか。
答えの1つは「武器性能の無限大化」だ。他社に真似できない画期的な技術、高度に専門的なノウハウなどをもつ。たとえば東大阪のハードロック工業は、クサビの原理を応用して一度締めると絶対にゆるまないナットを作り、技術でオンリーワンになった企業だ。
小が大に勝つには第一法則を活用した局所優勢主義をとった方がよく、大は第二法則を使う方が効率が良い。第一法則は弱者の戦略、第二法則は強者の戦略ということだ。ここでは、競合局面で市場占有率(シェア)1位の企業が強者、1位以外のすべての企業は弱者と定義している。
規模が問題なのではなく、競合局面によって立場も変わる。たとえばホンダは、大企業だが国内乗用車市場で1位ではないので弱者となる一方で、世界のオートバイ市場では強者になる。
弱者と強者はとるべき戦略が根本的に異なる。弱者の基本戦略は「差別化戦略」、強者の基本戦略は「ミート戦略」だ。
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