企業をはじめ、どんな組織体であっても、そこで行われる活動や事業は目的・手段・結果の3つによって構成されている。目的は、何のために、誰のためにといった、その活動の原点であり使命だ。手段は目的を実現するための方法、結果は活動の成果である。
どのような組織体であれ、この3つのなかで最も重要かつ大切なものは、目的だ。それなのに、手段や結果にばかり気を取られ、誤った方向に進んでいる企業が多くある。成果のために手段を選ばないような経営をしているから、わが国の企業は停滞してしまっているのだ。
企業経営の最大の目的・使命は、企業に関係する人々の幸せの追求・実現である。業績や勝ち負け、シェアや業界ランキングも確かに重要だ。だがそれは、「関係する人々の幸せ」を実現するための通過点にすぎない。業績や勝ち負けを過度に重視したり、それらを目的にしたりすると、本来幸せにすべき人を、結果のための道具やコストと評価・位置づけることになってしまう。
業績や勝ち負けのための手段・道具のように位置づけられた人が、属する組織のために、価値ある仕事をしてくれるはずがない。逆に、真に大切にされていると実感した人は、属する組織のために一生懸命になってくれるものだ。
企業経営において、とりわけその幸せを追求・実現しなければならない人が5人いる。第1は、社員とその家族。第2は、社外社員とその家族(取引先・協力企業など)。第3は、現在顧客と未来顧客。第4は、地域住民、とりわけ障がい者など社会的弱者。第5は、株主・支援機関などだ。
これはつまり、売り手良し・買い手良し・世間良しの「三方良し」ではなく、いわば「五方良し」の経営である。「三方良し」の経営と異なるのは、企業・経営者・株主という「売り手」の「良し」ではなく、社員の「良し」を重視するとともに、社員の家族も同様に重視する点だ。また、取引先・協力企業も幸せづくりの対象として明確に位置づけている。加えて、単に世間ではなく、地域住民、とりわけ障がい者など社会的弱者を幸せにする経営が必要であることを明示し、企業に求めている点も重要だ。この5人の幸せを最大目的にし、この5人が幸せを実感できる経営こそ、正しい経営である。
経営理念とは企業の存在目的であり、「わが社は何を通じて、世のため人のために貢献するか」を社内外に伝える宣言文だ。よい経営理念がない企業、経営理念が全社員に浸透していない企業は、方向舵のない船や飛行機と同じだ。経営理念とは、全社員をはじめとする関係者が共感・共鳴できるような、心に響く内容でなければならない。
心に響くような経営理念を持たない企業には、社員も顧客も集まらない。誰しも、幸せになりたいと思い、生き、働いているのだから。
「やるか・やらないか」「右に行くか・左に行くか」といった最終決断ができないのなら、経営者としては失格である。しかし決断を誤れば、多くの社員やその家族を路頭に迷わせてしまうことになる。
どうすれば、社員を幸せに導く決断ができるのか。何より大切なのは、損得や勝ち負けとは別のモノサシで判断することだ。決断すべき事柄を冷静に分析して、企業が幸せにすべき5人にとってどうするのが正しいことなのか、どうすることが自然なのかを基準にする。決して、自社や自分の都合をモノサシにしてはならない。
一流の人でも、そうでない人でも、与えられた時間は同じである。人は皆、1日は24時間、1年は365日だ。
では、一流といわれる人とそうでない人は、どこが違うのか。
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