農業は、サステナブル(持続可能)な世界を実現するうえで「必要条件」だ。しかし生産者以外の者が当事者意識をもって考えることはあまりない。
マッキンゼーが、日本の農業の未来を考えるうえで必要と提言するのは次の2つだ。(1)農業を全世界のすべての人間の問題として捉え、グローバルな視点で俯瞰すること、(2)「業界の壁」を排除して、農業バリューチェーン内外を有機的にコネクトすることである。
世界各国の動向は、農業に直接的あるいは間接的に影響を及ぼす。2030年までに、世界人口は85億人に達するとみられている。発展途上国の中間所得層(年間所得50万〜250万円の層)は拡大し、今後20年間の農産物需要は約1.5倍に膨らむと予想されている。
特徴的なのは、世界の食肉消費量の増加である。国や地域、畜種により差はあれども、その需要は今後着実に増えていく見通しだ。世界的には米国、カナダ、オーストラリアなどのアングロサクソン系の国々で肉需要は大きく、アジアでは小さい。
しかし人口拡大のピークを迎える中国は、アジアの中でも例外的に畜産消費量が増大する傾向にある。牛肉需要についていえば、国内生産だけでは需要拡大を賄えない。そのため2025年までには、輸入量を2015年の水準の最大40%を引き上げる必要があると考えられる。
こうした中国の牛肉需要は、飼料となる大豆やトウモロコシの需要の伸びに影響し、世界の食料需要の拡大を牽引している。
世界における主要農産物の貿易取引額は、小麦、大豆、トウモロコシ、砂糖の順に多い。一方で消費量に占める輸出入取引量は、大豆が43%、砂糖が33%と極めて大きな割合を占める。輸出入への依存度が高いと、生産地の政情変化や大規模な自然災害などにより、食料供給が不安定になりがちだ。
地球温暖化も、輸出国の順位に影響を与える。トウモロコシの輸出入量の予測では、このまま温暖化が進行すれば、米国とブラジルが二大輸出国となる。だがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃シナリオ(気候変動による地球の温暖化を1.5℃未満に留める)だと、ロシアやウクライナが大輸出国となる。日本はこうした可能性も考慮し、各国との関係構築をすべきだろう。
近年、世界の農業を変えるような技術革新が進んでいる。大きくは、デジタル活用、ゲノム編集技術、バイオ製剤と生物農薬に分けられる。ここではデジタル活用として、「アグテック(農業テクノロジー)」について紹介しよう。
まず、ドローンを活用したリモート技術だ。搭載したカメラで農地をライブモニタリングすれば、1日の作業時間の大半を畑の見回りに費やさなくてもよくなる。AIの画像解析と組み合わせれば、必要な箇所にピンポイントで農薬散布することも可能になり、農薬使用量を低減できる。
スマート農業設備としては、GPSを使った自動操縦のトラクターが挙げられる。土壌に合わせて刃が地面に入る深さをコントロールすれば、畑の質を均一化することも可能だ。
さらにAIの活用により、理想の栽培環境を実現できる技術も登場している。実地で収集されたさまざまなデータをもとに、農作物の生育状況や生産量をモニタリングすることで、生産性の最大化や収量予測ができるようになるのだ。
世界の農業は、輸出入を通じて相互に関係し合っている。このことは、日本の農業戦略を考えるうえでも無視できない。一国の政策転換が世界の農業にどう影響するのか。
3,400冊以上の要約が楽しめる