2020年、全世界に新型コロナウイルスが広まった。だが台湾は、その封じ込めにいち早く成功している。これは蔡英文総統の言葉を借りれば、「医療専門家や政府、民間、社会全体の努力」が合わさった結果だ。
台湾の対策は素早かった。ウイルスの正体が明らかになる前から、政府の機関として中央感染症指揮センターが設立され、各部会(日本でいう省庁)が連携して防疫対策に臨む態勢が整えられた。1月21日に武漢から帰国した台湾人女性の感染が確認されると、翌日には武漢からの団体観光客の入国許可を取り消し、24日には中国本土からのすべての団体観光客の入国を禁止した。同時にスマートフォンを利用して感染経路の確認、および感染者と接触した可能性のある人を割り出し、全員に警告メールが送信された。さらには民間企業にマスク増産を要請し、そのすべてを政府が買い上げ、すべての人にマスクがいきわたるような対策が取られた。
こうした迅速な対応の結果、台湾では他国で行われたようなロックダウンや休校、飲食店の強制休業を行わずに済んだ。台湾は日常生活を維持しながら防疫に成功し、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の状況下にあってもGDPのプラス成長を実現した。その後は「台湾は手助けできる(Taiwan Can Help)」のスローガンのもと、各国に大量のマスクと防護用品を送っている。
台湾が今回の新型コロナウイルス感染拡大防止に成功した理由のひとつとして、2003年のSARSの流行を経験したことが挙げられる。台湾はSARSによって346人の感染者と73人の犠牲者を出し、台北市内の病院では2週間に及ぶ封鎖も経験している。
公衆衛生の観点から言えば、少数の人が高度な知識を持っているよりも、大多数の人が基本的な知識を持っているほうが重要だ。基礎的な知識を持つ人が多ければ、情報を再確認し、意見交換をして対策を考えられるからである。反対に、少数の人だけが高度な知識を持っている状態は、何が起きているか理解していない人が大多数であることを意味し、危険である。
台湾の人々は誰でも「ウイルスはせっけんで手を洗えば洗い流すことができる」「せっけんを使わなければ意味がない」という基礎的な知識を、SARSの経験から理解している。台湾の人々は日々発表される情報から、新型コロナウイルスへの知識を深め、「自分がいる場所でどのようにしてよりよい方法でウイルスに対抗していくか」を考え、ひとりひとりがイノベーションを図ってきた。
イノベーションは、中央にいる一握りの人間が多くの人々に強制するものではない。だから各地域で状況が異なれば、それに適合した方法が生み出されていく。これは台湾の人々がウイルスの仕組みを正確に理解しており、政府と人々の間にパンデミックに備えるための意識が共有されていたからこそ成し得たことである。
新型コロナウイルス対策において、政府が対処しなければならない最も大きな問題がマスクの供給問題であった。台湾のマスクマップは世界的に注目された。これはアプリを通して、店舗にあるマスクの在庫がわかる仕組みである。この仕組みは台湾南部に住む一人の市民が、近隣店舗のマスクの在庫を地図アプリに公開したことから始まった。
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