ファスト&スロー

あなたの意思はどのように決まるか?
未読
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あなたの意思はどのように決まるか?
未読
ファスト&スロー
出版社
早川書房
出版日
2014年06月20日
評点
総合
4.8
明瞭性
4.5
革新性
5.0
応用性
5.0
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おすすめポイント

本書の内容は衝撃的である。私たちの下す判断という判断がいかに誤った認識に基づくものであるかを情け容赦もなく明らかにしていくからだ。たいていの人は、自分の意見を決めているのは自分自身だと信じている。確かに決めているのは自分自身なのだが、その自分自身がいかに外界からの影響を受けて誤った判断をしているかということは考えもしないだろう。本書は、私たちの判断の多くがほんの些細な出来事に引きずられていること、あるいはまた、ちょっとした言い回しの変化により真逆の判断すら下してしまうこと、そして私たちはそれを意識すらしていないことなどを明快に説明していく。

本書は著者の研究の集大成ともいえるものであり、読者はアカデミックな書物特有の知的興奮に浸ることができるだろう。一方で、本書は非常に実用的な側面も持ち合わせている。例えば、世論調査やマーケティング調査の結果がいかに恣意的に導き出されうるものであるか、リスク評価の際に用いるべき数値の提示方法はどのようなものであるか、あるいは、よりバラつきの少ない人事採用をしていくためにはどのような方法を採ればよいか等を本書によって認識できるようになるだろう。そのような認識を持ち、批判的な思考を繰り返していくことはビジネスの場面で、あるいは日々の暮らしの中で必ずや有益であろう。

本要約はたぐいまれな内容を持つ本書のうち、システム1(速い思考=Thinking fast)に関するとりわけ印象的な部分をわずかに抜粋してまとめたものに過ぎない。長大な書物ではあるが、是非通読され衝撃に打たれていただきたい。

ライター画像
猪野美里

著者

ダニエル・カーネマン
認知心理学者。プリンストン大学名誉教授。専門は意思決定論及び行動経済学。
1934年テルアビブ生まれ。幼少期をパリで過ごし、その後、家族とともにパレスチナに移住。エルサレムのヘブライ大学で心理学と数学を学んだ後、イスラエル国防軍心理学部門に勤務した。1958年にはアメリカに移住し、カリフォルニア大学バークレー校で心理学の博士号を取得。1993年よりプリンストン大学の教授となる。2002年には、不確実な状況下における意思決定モデル「プロスペクト理論」などを経済学に統合したことが画期的な業績として評価され、心理学者ながらノーベル経済学賞を受賞。2011年および12年にはブルームバーグ選出の「国際金融で最も影響力のある50人」に選ばれている。

本書の要点

  • 要点
    1
    私たちには二つの思考モードがある。システム1(速い思考)は直感や感情のように自動的に発動するもので、日常生活のおおかたの判断を下している。一方、システム2(遅い思考)は熟慮とでも呼ぶべきもので、意識的に努力しないと起動しない。システム1の判断を退けてシステム2を働かせるのは、多くの人にとって難しい。
  • 要点
    2
    自動的に物事に因果関係を形成し、単純な一貫性のある現実を求めるシステム1は、プライミング効果やハロー効果をもたらす。私たちの判断は、自分で決めているつもりでもそうしたことによって大きく左右されている。

要約

二つの思考モード

システム1(速い思考)とシステム2(遅い思考)

著者は、心理学で広く使われている名称に従い、努力せずとも自動的に高速で働く「速い思考」をシステム1、複雑な計算など頭を使わなければ出来ない知的活動を行う「遅い思考」をシステム2と呼ぶ。システム1が行う活動はたとえば、「二つの物体のどちらが遠くにあるかを見て取る」「突然聞こえた音の方角を感知する」などがある。これに対し、システム2が行う活動には「レースでスタートの合図に備える」「人が大勢いるうるさい部屋の中で、特定の人物の声に耳を澄ます」などがある。

システム1とシステム2は私たちが目覚めているときは常に働いている状態だが、システム2の能力は通常ほとんど使われることはない。システム2は、自動運転するシステム1が処理しきれない問題に遭遇した時にのみ使われる。

システム1は押しのけづらい
3dalia/iStock/Thinkstock

システム1の下す直感的な判断はだいたいにおいて適切だ。が、物事をより単純化して答えようとするきらいがある上に(この単純化をヒューリスティクスと呼ぶ)、論理や統計がほとんどわからない、しかもスイッチオフできないという難点がある。

これに対し、システム2の下す判断は緻密で的確であり、システム1の衝動的判断を抑える働きをしている。であれば、システム1の判断を常に監視して肩代わりすればよいと思うかもしれないが、システム2の働きは遅くて効率が悪いため、その方法で判断の連続である日常生活を滞りなく送ることは難しいだろう。

システム2は怠け者でもある。システム1が提案した考えや行動を厳しくチェックしているかといえば必ずしもそうではない。その例証として著者が引き合いに出すのは次のような簡単な問題である。

バットとボールは併せて1ドル10セントです。

バットはボールより1ドル高いです。

ではボールはいくらでしょう?

多くの人の頭に閃くのはおそらく10セントという答えであろう。そして、計算してみればすぐにその答えが間違っていることにも気づくはずだ。それにも関わらず、直感的に10セントと答えてしまう人は非常に多い。この問題に回答した大学生は数千人にも上るが、なんと、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、プリンストン大学の学生のうちの50%以上が間違った答えを出したのである。この結果は、多くの人にとって、システム1の直感を退けてシステム2を働かせることが非常に厄介だということを示している。

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要約公開日 2014.10.14
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