影響力の武器【第三版】

なぜ、人は動かされるのか
未読
影響力の武器【第三版】
影響力の武器【第三版】
なぜ、人は動かされるのか
未読
影響力の武器【第三版】
出版社
誠信書房
出版日
2014年07月10日
評点
総合
4.5
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

本書は、実験社会心理学者である著者が承諾の心理を研究対象とし、人が要請を受け入れる心理的原理を「影響力の武器」と名付けて、様々な承諾誘導のテクニックや考察を一冊にまとめた興味深い本である。著者は、承諾誘導の戦術は大きく6つのカテゴリー(返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性)に分類できるとしている。これらは人間行動に大きく関わる心理的原理であり、通常は正しく作用し信頼性の高い判断方法である。しかし、情報を巧みにコントロールすることで人間をあらぬ方向に行動させ得る危うさをも兼ね備えている。本書では、それぞれのカテゴリーに関し、実験や考察を基に人がどのような行動を取るのかについて説明がなされているとともに、歪められた情報によって罠に陥らないための防衛法を紹介している。

情報過多で変化のスピードが速い現代社会においては、人間は迅速な判断や決定を求められるようになり、その方策として原始的な反応で対応可能な上記の心理的反応を活用する機会が増えているという。しかし、本書内で取り上げられている多くの事例から、単純な刺激による行動パターンを悪用するケースや集団心理が間違った方向に進み多くの人に誤った行動を取らせてしまうケースなど、「影響力の武器」による判断は、本来の正当な行為ではない危険を招く恐れがあることに気付かされる。本書は、社会心理学による考察という範疇にありながら、現代を生きる人々に社会と人間の関係の在り方を問う内容となっており、必読の一冊である。

著者

ロバート・B・チャルディー二
アリゾナ州立大学心理学部名誉教授。米国を代表する社会心理学者の一人であり、社会的影響過程、援助行動、社会的規範などに関する数多くの業績で学界をリードしてきた。ウィスコンシン大学、ノースカロライナ大学、コロンビア大学で心理学を学んだ。ミルウォーキーに生まれ、さらにイタリア系一家の子どもとして育った(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

本書の要点

  • 要点
    1
    日常の判断を行う際、私たちは自動的反応を用いることが多い。この簡便反応の利点は、単純な思考で物事に対応できる経済性と、より早く正確に適切な対応が出来る効率性にある。
  • 要点
    2
    承諾誘導は、大きく6つのカテゴリーに分類できる。返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性である。これらの原理は社会の中で生きる人間にとって不可欠な心理的反応であり、効率的に判断を下す助けとなっている。
  • 要点
    3
    しかし、この自動的反応はある刺激で一定の行動を促す作用があるため、この仕組みを利用した商用活動などにより、知らぬ間に行動をコントロールされる恐れがある。

要約

影響力の武器

Alexander Hoffmann/iStock/Thinkstock
カチッ・サー

最近アリゾナにジュエリーの店を開いた友人から相談の電話がかかってきた。なかなか売れないトルコ石を半値で売りさばくよう店員に指示したが、店員は2倍の値段で売ると勘違いしてしまった。しかし、数日後には全ての宝石が売れたという。一体何故なのか。

これは、エソロジーと言われる動物研究の成果から証明できる。鳥の行動は、ある刺激を与えると一定の動きをする機械的な行動パターンがあるという。テープレコーダーのボタンを「カチッ」と押すと「サー」とテープが回るように。

例えば、ヒナ鳥の鳴き声を聞くと母親は世話を始める、といった具合だ。実は、このような動物の行動パターンが人間にも当てはまるというのだ。エレン・ランガーらによる人間行動の実験の一つに、人に頼みごとをする際に理由を添える方が成功率は上がる、というものがある。しかも、一概に正当な内容でなくとも「理由」だと相手が理解すると承諾率が上がるのが興味深い。

「理由」が引き金となり「承諾する」という一定の行動に出ているのだ。この行動パターンを冒頭に紹介したジュエリーの話に当てはめると、「高価な物=良質」と考える顧客層が、値段の上がったトルコ石は価値があると考え購入したと推測される。

利益を得るのは誰?

上に挙げたトルコ石の事例は簡便法に賭けた選択と言える。人間は複雑な社会環境の中で俊敏な判断を求められており、その対処法として簡便法に頼ることは一つの有効な手段なのだ。例えば、「判断のヒューリスティック」というものがある。発言の中身を吟味し判断するのでなく、例えば「専門家」という地位でその人の発言内容を正当化してしまう心理現象だ。

ほとんどの人は行動パターンについて無知であり、何も考えることなく機械的に行動している。しかし、この種の行動は危険も孕んでいる。わざと引き金を真似ることで利益を得る人がいるのだ。例えば、価格をかなり釣り上げることで商品価値を高めて売る(本当の商品価値とは異なる)、ということだ。

また、人間の知覚には「コントラストの原理」と呼ばれる心理現象がある。これは、二番目に提示された商品は一番目に提示された商品の見せ方次第で価値が異なって見える現象で、実際に洋服や不動産、自動車の販売に用いられる手法である。操作しているように見せずに相手を操作する、つまり「影響力の武器を行使している」と言える。

返報性——昔からある「ギブ・アンド・テーク」だが……

AlexRaths/iStock/Thinkstock
返報性のルールはどのように働くか

「返報性」とは、他人が何らかの恩恵を施したら似たような形でお返しをしなければならない、と考えてしまう心理状況を指す。相手に対し恩義を感じるこのルールは社会に広く浸透し、人間の社会性の構築に貢献してきた大きな存在だ。

しかし時に、このルールを悪用する人たちに行動をコントロールされるケースがある。

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要約公開日 2014.10.21
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