最近アリゾナにジュエリーの店を開いた友人から相談の電話がかかってきた。なかなか売れないトルコ石を半値で売りさばくよう店員に指示したが、店員は2倍の値段で売ると勘違いしてしまった。しかし、数日後には全ての宝石が売れたという。一体何故なのか。
これは、エソロジーと言われる動物研究の成果から証明できる。鳥の行動は、ある刺激を与えると一定の動きをする機械的な行動パターンがあるという。テープレコーダーのボタンを「カチッ」と押すと「サー」とテープが回るように。
例えば、ヒナ鳥の鳴き声を聞くと母親は世話を始める、といった具合だ。実は、このような動物の行動パターンが人間にも当てはまるというのだ。エレン・ランガーらによる人間行動の実験の一つに、人に頼みごとをする際に理由を添える方が成功率は上がる、というものがある。しかも、一概に正当な内容でなくとも「理由」だと相手が理解すると承諾率が上がるのが興味深い。
「理由」が引き金となり「承諾する」という一定の行動に出ているのだ。この行動パターンを冒頭に紹介したジュエリーの話に当てはめると、「高価な物=良質」と考える顧客層が、値段の上がったトルコ石は価値があると考え購入したと推測される。
上に挙げたトルコ石の事例は簡便法に賭けた選択と言える。人間は複雑な社会環境の中で俊敏な判断を求められており、その対処法として簡便法に頼ることは一つの有効な手段なのだ。例えば、「判断のヒューリスティック」というものがある。発言の中身を吟味し判断するのでなく、例えば「専門家」という地位でその人の発言内容を正当化してしまう心理現象だ。
ほとんどの人は行動パターンについて無知であり、何も考えることなく機械的に行動している。しかし、この種の行動は危険も孕んでいる。わざと引き金を真似ることで利益を得る人がいるのだ。例えば、価格をかなり釣り上げることで商品価値を高めて売る(本当の商品価値とは異なる)、ということだ。
また、人間の知覚には「コントラストの原理」と呼ばれる心理現象がある。これは、二番目に提示された商品は一番目に提示された商品の見せ方次第で価値が異なって見える現象で、実際に洋服や不動産、自動車の販売に用いられる手法である。操作しているように見せずに相手を操作する、つまり「影響力の武器を行使している」と言える。
「返報性」とは、他人が何らかの恩恵を施したら似たような形でお返しをしなければならない、と考えてしまう心理状況を指す。相手に対し恩義を感じるこのルールは社会に広く浸透し、人間の社会性の構築に貢献してきた大きな存在だ。
しかし時に、このルールを悪用する人たちに行動をコントロールされるケースがある。
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