なぜ人々は「リーダーは偉大だ」と感じてしまうのか。それは成功後に後付けされた偉人としてのイメージ像に理由があり、自分とはかけ離れた存在だと錯覚してしまう。コア・コンピタンスという概念は、どのように企業が成功するかを確認するには有効だが、どのような組織能力を持っていれば成功するかといった過程の分析には無力である。
これと同様に、リーダーになる過程を重要視せず後付けの分析や議論に頼るがために、リーダーに対する誤った認識を持ってしまっているのだ。この傾向を払拭するため、本書ではリーダーとなるプロセスに注目すべく「旅」になぞらえて考察していく。
一方、成功を踏まえて業績を讃える後付けの評価は事実に基づく評価であり、まやかしでないのも事実だ。リーダーの考え方に賛同したフォロワー達がリーダーシップによる成果だと評価した時、リーダーに対しリーダーシップが帰属されるという考え方は、ワシントン大学のT・R・ミッチェル氏などにより「リーダーシップの帰属理論」として構築されている。リーダーシップとはリーダーの中に存在する概念ではなく、リーダーとフォロワーの間に構築される社会的現象、共振現象でありダイナミックなプロセスなのだ。
昔話「桃太郎」にも見られるように、初めからリーダーたる自覚でリーダーシップが生まれてくるものではない。英雄が旅に出るのではなく、旅に出てから英雄になるのだ。リーダーシップの旅は、「リード・ザ・セルフ」、「リード・ザ・ピープル」、「リード・ザ・ソサエティ」と段階を踏み変化していく。
リード・ザ・セルフ、つまり、夢や希望など人を駆り立てる要素は様々だが、前人未到の地を進むことは大きなリスクを伴う。それでも前に進むには、「内なる声」を聴き、自分自身を突き動かす原動力として本当に旅に出たいと思う気持ちがあるかどうかだ。一人称で見えないものを見たいと思う強い気持ち、これがリーダーシップを発揮するプロセスを理解する上で最も重要である。
一方、組織におけるリーダーに上記の定義を当てはめるのはやや困難だ。組織は管理系統があり肩書やポジションが伴うからだ。ペンシルバニア大学のR・J・ハウスはリーダーを①自然発生的なリーダー、②選挙でえらばれたリーダー、③任命されたリーダーの3タイプに分類し、これらが峻別されてこなかったためにリーダーシップ論が紛糾してしまうと指摘している。本書では、リーダーシップの本質を捉えているという点で①自然発生的なリーダーを基本に発想していく。
組織内のリーダーシップとマネジメントを混同しがちな人は多い。リーダーとは部下を従え同じ信念の下求められる方向に導くものと考えがちだが、組織というヒエラルキーの下では部下は上司に従うのが前提にあるため、部下が上司の信念に賛同しているかどうかは疑問だ。組織においてはマネジメントが日常的に機能する。その点だけに注視した場合、リーダーシップとしての本質、つまり、「見えないもの」を見て人を巻き込み各自が自発的に動く、という旅の前半のプロセスを見落とす恐れがある。
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