軍事戦略家ジョン・R・ボイドが編み出した理論のなかでもとくに重要なのが、現実を正確に把握するためのモデル 「OODA(ウーダ)ループ」だ。OODAループは「観察(Observation)、情勢判断(Orient)、意思決定(Decision)、行動(Act)」の学習ループで構成される。
企業においては、外部情報や情勢判断をもとに、迅速かつスムーズに一連の行動を実行できる体制を整えねばならない。OODAループを活用する企業では、観察(Observation)によって現実を正しく認識し、認識結果に応じた情勢判断(Orient)ができるよう、企業活動を行なっている。
1940年の第2次世界大戦の西部戦線において、量的・質的に劣っていたドイツ軍は、「電撃戦」によって勝利を収めた。イギリスの軍事史家リデルハートは、この戦いの様子を次のように語っている。「彼ら(敵軍)の行動のスピードはあまりにも遅く、刻々と変化する状況に追いつくことができなかった」
電撃戦理論の創始者の一人であるフラーは、電撃戦とは「機動力を心理的武器として採用すること」であると述べている。ボイドは「少人数で勝つための原則」、すなわち電撃戦の原則がドイツ軍の勝利の基礎を形成したこと、またその本質は組織文化的なものにあるという結論を導き出した。
「敵に先んずる1分が勝利を呼び込む」という言葉に代表されるように、電撃戦の原則はスピードの重視である。不確実性な状況に直面するなかで、敵側が有効な意思決定を行えなくなるような攻撃を実施しつつ、味方側の意思決定能力を向上させるのだ。
ボイドから学んだ者たちは、ビジネスの世界で「スピードを武器として活用し、競合他社に対抗する」という考え方を実践していった。軍事戦略の前提条件は、強いストレスと不確実性のなかで参加者が協調・協働することだ。優れた戦略は、実際の衝突が始まる前に戦闘の枠組みを望ましい状態にする。このような戦略は戦争だけでなく、ビジネスにも適用できる。
1980年代の「ホンダ・ヤマハ戦争」をビジネスにおける電撃戦とみなすならば、ホンダの決定的な勝因もまたそのスピードにあった。ホンダは意思決定のサイクルタイムを短くすることで市場機会を創り出し、顧客の購買意欲を喚起する製品を投入していったのだ。
不利な点を克服し、競争優位を得るための「勝利を導く要因」は何なのだろうか。この問いを解決するためには、あまねく戦争や紛争にも適用できる普遍的なパターン、共通の要素を見いだす必要がある。
その答えはアジリティ(機敏性)だ。
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