デジタル・テクノロジーは、確実に私たちの生活を変えた。テクノロジーは日々進化し、古いテクノロジーは絶えず新しいテクノロジーに取って代わられている。紙の書籍、実店舗、CDやレコードは絶滅し、学校教育もすべてオンラインで行われるようになる――多くの人はそう考えていた。
しかし実際は逆のことが起きている。人々はふたたびアナログを求めるようになった。デジタルに囲まれる現代生活のなかで、商品やサービスに直接触れたいと望み、そのための余分な手間や出費をいとわなくなったのだ。
ここで重要なのは、「デジタルかアナログか」の二者択一ではないということである。アナログの逆襲から見えてくるのは、過去と共存しながらテクノロジーの未来を築く、新しいポストデジタル経済だ。
紙は真っ先にデジタルに取って代わられる技術だと思われていた。しかし現実として、いま世界中でノートメーカー「モレスキン」のノートの売り上げが伸びている。
アナログ技術は、特定の用途においてはデジタル技術よりも実務面で勝る。紙のノートはその好例だ。アナログは、生産性と機能性ではデジタルにかなわない。しかし「クリエイティビティ」「イマジネーション」「アート」といった分野においては、アナログのほうが有利である。人間は、五感を使った感覚によって肉体的な刺激を受ける必要がある。デジタルにはないアナログの強みは「経験」だ。フィジカルなものは、より魅力的な経験を生む。
いま紙に一番興味を持っているのは、若いデジタル世代なのだという。ノスタルジックな気持ちからではなく、「紙はデジタルよりも実用的である」という理由の人が多い。紙はデジタルではできないやりかたで情報を整理できる。新しいアイデアを考えるとき、デジタル・デバイスだけを使うよりも、まず紙の上に自由にスケッチしてからのほうが成功しやすくなったという企業もある。デジタル・デバイスは絶えずバージョンアップを繰り返すので、その都度使い方に慣れなければならないのに対し、紙とペンはただ取り出して使うだけという利点もある。
しかしながら「紙かデジタルのどちらか一方を選ばなければならない」というわけではない。紙に書いたものをスキャンして、オンラインで共有したりデータとして保存したり加工したりすることもできる。紙とデジタルは競合するのではなく、共存できるのだ。
デジタルカメラはフィルムカメラよりも利便性が高く、瞬く間に普及した。一方でフィルムはそのまま絶滅の一途をたどるかに思われた。しかしいま新たな需要が広がっている。「ロモグラフィー」という、フィルムを使うロモ・カメラで撮影されたアナログでレトロな写真が、若者を中心にブームとなったのだ。
ロモグラフィーを撮る人々は、完璧さやスピードといった「質」は求めない。「シャッターを切って写真を撮る」というプロセスと、その仕上がりに魅力を感じている。
かつてデジタル写真の最大の課題は画質であり、画質が向上すれば問題は解決すると考えられていた。しかしデジタル写真の最大の問題は、写真が実在しないということだった。家族アルバムは消滅し、紙に印刷された写真は激減した。
人々は写真に必ずしも画質だけを求めているわけではない。フィルムカメラは、予測のつかない仕上がりや画面のぼやけといった、アナログの欠点を強みに変えたことで成功したのである。
印刷出版物は、デジタル出版物よりも製造・流通にコストがかかる。それにもかかわらず印刷は特定の分野で成長しており、いまやデジタル出版物のアナログ版すら生み出されている。
3,400冊以上の要約が楽しめる