恐ろしいほど発生確率が高く、あらゆる産業の賢い起業家たちを陥れてきた10の迷信。本要約では、そのなかから「テクノロジーの迷信」「民主主義の迷信」「投資の迷信」「アイデアの迷信」を取り上げて紹介する。
まずは、サンフランシスコに最も蔓延している、「テクノロジーの迷信」だ。新しい創造にはテクノロジーが一番大事で、技術さえしっかり磨けば、結果はおのずとついてくる。こう思いこむことは、完全な間違いである。
著者のジョナサンがそれを痛感したのは、16歳の頃にポルノ掲示板制作に携わったときのことだ。当時は電気通信の一昔前。地元のBBSへの接続は無料でも、遠くのBBSへの接続は高価だった。ジョナサンはそのギャップをついた「シェアウェアブローカー」というビジネスを手掛けた。遠くのBBSからソフトウェアをダウンロードし、地元のBBSで月額課金と引き換えにそのソフトウェアを提供するモデルだ。
ジョナサンは、昼夜問わず自分が運営するBBSのユーザー分析に勤しんだ。しかし、期待した収入は得られなかった。同様のモデルで年間120万ドルもの収益を稼ぎだしていたBBSは、じつのところ大量のアダルト画像の販売で収益を上げていたのである。
その後ジョナサンは、最新技術を備え、まともなデザインで、画像のレパートリーを豊富にし、BBSを再出発させた。1000人ほどの課金者数獲得を見込んだが、6週間後に獲得できたのは、わずか十数人程度。それは、ユーザーがクレジットカードで課金できず利便性に欠けていたからだ。こうして「テクノロジーの迷信」の落とし穴に、二度もハマってしまったのである。
「素晴らしいテクノロジーを使ってプロダクトをつくれば、素晴らしい事業に直結する」。この考えは大間違いだ。事業とは、顧客が求めているものを提供することである。テクノロジーは、顧客が解決したい課題を解決するための「手段」にすぎない。
多くの企業はテクノロジー開発に資金を注ぎ、セールスやマーケティングにはほんの少しの資金しか回さない。創業間もない10名ほどのスタートアップでは、9人のエンジニアに1人のセールスという構成が多い。しかし、これではテクノロジーにばかりフォーカスしてしまう。
背景には、アイデア勝負で企業が次々に倒産した「ドットコムバブル」がある。この反動でテック系スタートアップは、プロダクト開発に命を懸けるようになった。
テクノロジーの迷信に陥らないようにするには、「テクノロジーですべて解決できる」という思いこみを捨てるのが一番だ。決してマーケティング戦略を忘れてはいけない。なぜなら優れたプロダクトが勝つのではなく、市場にリーチできたプロダクトが勝つからだ。
まずは、そのプロダクトが求められているかどうかを検証すべきである。検証自体は、テクノロジー開発と比べて安価で済ませられるのだから。
「民主主義の迷信」、それはチームで仕事をし、各メンバーが平等に会社の株をもてばうまくいくという考えだ。もちろん事業が好調なときは問題ない。しかし、責任や権力に平等を求めすぎた挙句、意思決定が惑わされるケースは多い。
この事実をジョナサンが身をもって学んだのは、友人のサムとクリスとともにスタートアップを運営していたときだ。サムは名目上CEOだったが、三人は平等に会社の株を保有しており、協力し合って会社を経営しようと決めていた。めざすのは、革新的な3Dの軍事戦略シミュレーションゲームを開発し、PCゲーム産業の新境地を開くことだった。
ジョナサンらは20時間労働の日々を続けた。だが、より長い開発期間が必要になり、資金調達のためのプロトタイプを準備しなければならなくなった。そこでカリフォルニア中の投資家に会い、見事、12人の投資家から合計9万ドルの資金調達に成功。しかし、どれだけ開発の人数を増やしても、資金が底をつく前に3Dゲームの開発は終わらないことが判明した。それなら、まずはデモ用につくった2Dゲームをリリースしてはどうか。ジョナサンの提案に、CEOのサムが反対した。しかし、3人で多数決をとることになり、結局は2Dゲームを先にリリースすることとなった。
3,400冊以上の要約が楽しめる