これまでの日本人の生涯は、終身雇用制のもと、会社に依存したサラリーマン生活を送り、定年後は年金で余生を送るというモデルで表すことができた。このモデルは、少子高齢化や年金支給開始年齢の引き上げなどで崩壊したといわれている。しかし、今でも日本人の意識に根強く残っている。
本書が提示するのは、そうしたモデルから離れて、これからの時代を幸せに生きるための指針である。
近年、パワハラやドメスティックバイオレンス、年金支給額の減額といった話を聞くことは珍しくないだろう。しかしパワハラをされても会社を辞められないのは、お金(収入)を会社に依存しているからである。ドメスティックバイオレンスにあっても離婚できないのは、家計の収入を夫に依存しているからだろう。また、退職した高齢者は、年金を支給する国家に依存しているといえる。
大事なのは、理不尽なことが起こっても、自由に別の場所に移れるようになることだ。そのためには、国家にも、会社にも、家族にも依存せずに生きていくための十分な資産をもち、経済的自立を果たす必要がある。つまり、お金を得ることが、真の「自由」を獲得することにつながるのだ。
これからの時代は、「人的資本」「金融資本」「社会資本」という「幸福のための土台」を築くことが求められる。
「人的資本」とは「働いてお金を稼ぐ力」のことだ。「これからずっと働くことで、将来得られる収入の総額」でもある。「将来得られる」ということは、人的資本は若いときほど大きくて、年をとるにつれて減っていくことを意味する。
大卒サラリーマンの場合、生涯収入はおよそ3億円から4億円といわれている。どれだけリスクを差し引いても、20代なら1億円を超える人的資本をもっていることになる。
若いときほど、人的資本は大きい。また、人的資本の活用は、株式などの金融資産の運用とは異なって、「損をしない投資」のようなものだ。働けば必ず収入を得られるのだから、いくら活用しても損をすることはない。若いときこそ大きな人的資本を運用する、すなわち働くことは、元本を最大限、全くリスクのない資産に投資するようなものなのだ。お金持ちをめざすなら、若者はまず働くのが一番だといえる。
「働く」ということは、日本ではまだ終身雇用制のサラリーマンになることと結び付けられる。しかしサラリーマンは、人的資本の活用において弊害を生む。
サラリーマンの生き方は次のようなものだった。新卒でたまたま入った会社に滅私奉公し、定年後は退職金と年金で悠々自適の生活を送る――。こうした生き方なら、定年とともに人的資本がゼロになっても問題はなかった。
ところが現在、平均寿命は90歳に近づき、年金支給年齢を70歳に上げなければ年金制度がもたないといわれている。今後は長く働くことが求められるのに、定年で人的資本がゼロになっては困るわけだ。
働き方には、「クリエイター」「スペシャリスト」「バックオフィス」の3種類がある。クリエイターはクリエイティブ(創造的)な仕事をする人で、スペシャリストはスペシャル(専門)をもっている人だ。一方、バックオフィスはマニュアル化された、責任の少ない仕事をする人たちである。バックオフィスは仕事と会社が一体化しており、その多くは、今後AIやロボットに代替されていく。
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