目の前の膨大な業務、チームのマネジメント、顧客対応、家事・育児・介護……ふつうに生きていると、いつの間にか私たちは、「自分がどう感じるか」よりも「どうすれば他人が満足するか」ばかりを考えてしまう。脳が「他人モード」に入ってしまうのだ。その一方で、日常で「自分モード」と呼べる時間がなかなか持てていない。このように自分モードのスイッチを切ったまま日々を過ごしていると、私たちは次第に「何をしたいのか」を思い出せなくなってしまう。
じつは企業経営でもこれと同じことが起きている。売上・利益、株主、マーケット、競合……「外部」ばかりを見ているうちに、「自分たちの原点」=「そもそも何をしたかったのか」が見失なわれてしまうのだ。するとその組織からは少しずつエネルギーが失われていく。
圧倒的な結果を出し続けている会社やチームには、「これがやりたい!」という強い思いを持った人たちがいるものである。そうした思いの源にあるのは、ロジカルに説明しきれない「直感」であり「妄想」だ。
「ビジョン思考(Vision Thinking)」とは、「直感」を「論理」につなぎ、「妄想」を「戦略」に落とし込む思考のモードである。
現在のリアルなビジネスを主に動かしているのは、PDCAによる効率化を目指す「カイゼン思考」であり、マーケットを獲りにいく「戦略思考」だ。そこで重視されるのは論拠やエビデンスであり、論理に裏打ちされた戦略である。いわゆる「言語脳(左脳モード)」の領域だ。
それに対して、言語脳だけではなく「イメージ脳(右脳モード)」も活用しようという「両脳(ハイブリッド)」な思考法が「デザイン思考」である。デザイン思考のエッセンスは「手を動かして考える」、「五感を活用する」、「人間中心の共創プロセス」の3点に集約できる。
「ビジョン思考」もこのようなエッセンスを踏襲している。だがデザイン思考が「現前する課題(イシュー)」からスタートするのに対して、ビジョン思考は「内発的な妄想(ビジョン)」から発想する。「イシュー・ドリブン(Issue-Driven)」と、「ビジョン・ドリブン(Vision-Driven)」との違いである。
ビジョン思考をマスターするためには、それを「習慣化」することが必要である。そこで大切になるのが「スペース」と「メソッド」だ。
ビジョン思考のスペースとは、脳が「自分モード」を取り戻すための空間と時間の「余白」のことである。具体的なアドバイスは次の2つだ。
(1)いますぐ1冊のノートを買うこと(A6・無地のモレスキンノートがおすすめ)
(2)いますぐカレンダーに、毎朝15分、ノートを書くためだけの予定を入れること
そこに「そのときに感じていること」を毎日フリーに書いていく。「ジャーナリング」という手法だ。「手書き」「1カ月続ける」「人に見せない」――これらのルールを守りながら続けていくだけで、「直感と論理をつなぐ思考法」が身についてくる。そして次第に自分モードが戻ってくる。
ビジョン思考の具体的なメソッドは、妄想→知覚→組替→表現のサイクルからなる。
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