世界経済は、現在をピークに減速していくという考え方が一般的だ。2019年は、中国以外のBRICsや中南米、中東、北アフリカなどを除く世界中のどの地域でも、GDP成長率が2018年を下回ると予想されている。アメリカ株式市場では、近いうちに第2のブラックマンデーとなる突然の大暴落が起きると懸念されている。
さらには、米中貿易戦争を始めとした政治リスクの高まりも、景気減速の要因のひとつだ。中国経済の停滞も世界に波及していくだろう。それに加え、IT産業の伸び悩み、原油価格の急落、ドル高の進行なども景気減速の要因といえる。
その中で、空前の好景気を迎えているのが日本だ。製造業では電気機器、非製造業では通信が好調で、化学、石油、商社も伸びている。もちろん、サービス業も伸びている。だが、これは、人手不足により、人材を提供する会社が好調なだけというのが実情だ。日本はこのように好景気ではあるものの、世界の政情不安を考えると、経営者のあいだでは、景気の先行きに懸念の声も強まっている。
日本の企業は過去最高の好景気を迎え、経済的には余裕がある。しかし、現在の日本企業は、体力はあっても経営力がない。
2018年12月、日立製作所がスイスの重電大手アセア・ブラウン・ボベリ(ABB)グループの送配電部門などを買収する方向に話がまとまったことが明らかになった。ABBは、世界で最も競争力のある多国籍企業のひとつだ。
規模では、ABBが国内での展開にとどまっている日立を大きく上回る。事業内容や規模で劣っている側の企業が買収を行っても、パワーバランスが逆転するのは目に見えている。グローバル企業を運営する能力は、親会社となる日本企業側にはないためだ。この場合は、ABBが日立の親会社になったほうが経営はうまくいくと大前氏は見ている。
日本には出来上がった新体制・新会社をマネージできる人材がいない。日産自動車や武田薬品工業では、役員に他国から招いた経営者を据えて起死回生を果たした。しかし、それを引き継げる日本人が社内で育っていない。これは日本企業の大きな問題である。
現在の国際社会は、主導国なき「Gゼロ」の世界から、アメリカが国際秩序を破壊し始めた「Gマイナス1」の世界へと移行しつつある。それは、世界中の国々に「自国ファースト」、すなわち「Me First」の価値観が蔓延する世界である。
また、国家モデル自体にも変容が見られる。これまで理想とされてきた西欧型民主主義国家が衰退し、独裁型国家が台頭。世界のバランスが崩れつつあるのだ。
さらには、スマホを中心としたデジタル技術が、国家観さえも変化させている。その背景には、米中企業が加速させる「デジタル・ディスラプション」がある。現在は、ビジネスの展開について、これまでのように「国」を中心に考えられなくなった。どんなに優れたサービスも、スマホのエコシステムを利用して、瞬時に世界化しなければ手遅れになる時代なのだ。
今後は、「Me First」、「国家モデルの変容」、「デジタル・ディスラプション」という3つの軸で、これまでとは異なる方法で世界を見ていかなければならない。
現在の国際社会を揺るがしているのは、トランプ大統領だ。彼は「アメリカ・ファースト」を掲げている。だが、それは実のところ、「トランプ・ファースト」、すなわち「Me First」にすぎない。
3,400冊以上の要約が楽しめる