著者は日々、「自分のためにカスタマイズした、精度の高いアンテナ」を張り巡らせている。だがアンテナの張り方を確立するまでは、仕事も人生もうまくいかなかったという。ヒントを得ようとビジネス書を読み漁っていたものの、不安が消えることはなかった。
そんな過去の自分に伝えたいのは、おもしろいと思えないものや、知っておくべき理由が見いだせないものは、追いかけなくてよいということだ。自分にとって必要でない情報は、血肉になることはないからだ。
なぜアンテナを張ると仕事と人生がうまく回り出すのか。それは、「いらないもの」がはじかれ、「欲しいもの」「必要なもの」が入ってくるようになるからだ。だからアンテナを張るというのは、仕事からプライベートまで、「アンラッキーを減らし、ラッキーを増やす仕組み」をつくるということである。この仕組みが実現している状態こそが「仕事と人生がうまく回っている」状態だ。
いま、情報量が増え、人間の脳は次から次へと「目移り」してしまっている。こんな状態における情報収集は、漁のようだ。なんでもすくい上げる「地引き網」を使うと情報過多になって混乱してしまう。その一方で「一本釣り」では、釣り上げるたびに大きな労力がかかり、すぐに疲れてしまう。
情報の海に投げる網は、目が粗すぎず細かすぎない、ちょうどいいものを使おう。「アンテナを張る」というのは、「欲しい魚」だけがかかるように網の目を調整するようなものだ。
ピカソにまつわるこんなエピソードがある。カフェのウェイターから、「絵を描いてくれないか」と頼まれたピカソは、紙ナプキンに絵を描いた。所要時間はわずか30秒ほど。そして「この絵の価値は100万ドルだ」と言ったという。これに驚いたウェイターが「たった30秒で描いた絵じゃないか」と言うと、ピカソは「違う。40年と30秒だ」と言い返したのだ。
このエピソードの教訓は、「積み上がっていくものには価値がある」ということだ。たった30秒で仕上げた絵でも、その絵が描けるようになるまでに何十年分もの蓄積がある。その年数に見合う価値があるわけだ。
これは「アンテナ」にも通じる話だ。今日アンテナを張れば、1年後には1年分、2年後には2年分の「ラッキー」が蓄積される一方で、「アンラッキー」ははじかれていく。
新しい仕事を任せられたときには、蓄積の価値を感じやすいはずだ。勝負を分けるのは、「仕事を任せられてから結果を出すまでの3週間」ではなく、「それまでの人生でどんな情報を得て、どういう人とのつながりをつくってきたか」「いかにそれらを、目の前の仕事に向かって適切に引っ張り出せるか」の2つだ。3週間で仕事をやっつけようとしている人は、「それまでの数十年と3週間」で勝負してくる人に太刀打ちできないだろう。
一度アンテナを張ってしまえば、基本的には受け身のスタンスでかまわない。アンテナを張ることで無用な努力をせずに済み、省エネできるからだ。すると、浮いた分の労力を活用し、情報からアイデアを考える、もう一歩踏み込んだ人付き合いをする、新しい挑戦をしてチャンスをつかむ……などといった、本当にやるべきことに集中できる。
誰しも「すごく関心がある」ことには、いくらでも労力を割ける。その一方で、「そこそこ関心がある」ことに詳しくなるのは大変なものだ。だから「そこそこ関心がある情報」に関しては、自分で勉強するのではなく、そのテーマに「すごく関心がある人」から教えてもらったほうが手っ取り早い。実際、「このテーマならあの人に教えてもらおう」といったことは、誰しも自然とやっているだろう。
著者はそうした「ある特定の情報に詳しい人」をリスト化し、「マイ賢者」として頼っている。メモアプリのEvernoteに「マイ賢者」のノートブックを設けており、「カメラ」「漫画」「心理学」「離島」など、多種多様なテーマのマイ賢者のリストを持っているという。
またそのリストには、「賢者の空席」も用意してある。
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