デザイン思考について理解を深め、実践するには、まずは誤解されがちな「デザイン」「デザイナー」について考えなければならない。
日本においてイメージされる「デザイン」は、名詞のdesignが意味する、色やかたちといったビジュアルだ。だがそれはデザインという言葉が持つ意味のごく一部でしかない。
一方で動詞のdesignには「設計する」「企てる」といった意味があり、「アイデアを考える」というニュアンスを持っている。すなわち新しいモノや体験、システムなどを作り出すことで、人が持っている課題を解決することこそがデザインである。
日常の小さな課題を発見し解決することもデザインにあたる。たとえば著者は5歳のとき、汗だくでやってきた郵便局員さんに氷水を差し出した。郵便局員さんを観察して「喉が渇いている」という課題を解決したという点で、著者の初めてのデザイン体験だったという。
著者は、デザインの起源は「道具」だと思っている。道具の発明こそ、人が抱えていた問題を解決し、あたらしい未来をつくる行為だからだ。たとえば映画『2001年宇宙の旅』の冒頭では、一匹の猿が骨を「武器」として手にする印象的なシーンがある。猿は「骨」にあらたな価値を与えて「武器」という道具をデザインし、「いままでとは違う未来」を手にした「デザイナー」だといえるだろう。
人類は、様々な課題を解決するために多くの道具を発明してきた。いわば、誰かのデザインによって人類は前へと進んできたのだ。
近年では、スティーブ・ジョブズが優れた「デザイナー」の一人として挙げられる。彼は、自分がデザインするものやテクノロジーによって、人間の知性を拡大しようとしていた。彼がデザインしたiPhoneによって、2007年以前と現在の世界は大きく変わったのだ。
多くの人を熱狂させる製品やサービスの多くは、誰かの「自分がほしい!」という主観から始まっている。ディズニーランドは、創業者であるウォルト・ディズニーの「大人の自分も、娘たちと一緒に楽しめる場所がほしい」という思いから生まれた。キンドルも、ジェフ・ベゾスの「本をもっと簡単に手に入れられる世の中にしたい」という気持ちからスタートした。いずれも経営者視点で「儲かること」を追求したわけではなく、消費者視点の「わがまま」がモチベーションとなっている。
誰もが簡単に同じ情報を手にいれられるようになった現代では、論理や客観で生み出されたものは飽和状態にある。だからこそ、自分の主観を大切にするマインドセットが必要なのだ。
日本の社会人は客観的であることを重視されることが多い。だが、車輪を前に進めるために、客観的であろうとするブレーキを外し、自分の創造性に対する自信(クリエイティブ・コンフィデンス)を育ててほしい。
クリエイティブ・コンフィデンスを育てるためには、自分の主観を信じることに加え、次の4つのマインドセットが役に立つ。
(1)曖昧な状況でも楽観的でいること:机に向かって知恵を絞るのではなく、どこかに潜んでいるヒントを探すつもりでワクワクしながら取り組む。
(2)旅行者/初心者の気分でいること:ヨソモノの目を持つことで、「当たり前」になっていた日常からアイデアの原石を見つけ出す。
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