著者は幼稚園の頃から、俳優になると決めていた。高校卒業後は、その夢に向かって芸能界へ飛び込んだ。しかし、俳優の仕事自体はときおり舞い込むだけ。いろいろな仕事をして食いつなぐ20代だった。30代に入ったころには、ほぼ夢はあきらめかけていたという。俳優一家に生まれたわけでもなければ、仕事をもらうコネもない。
しかし、未練を残したまま続けるうちに、やっと有名になるチャンスが到来した。それが、明るく激しいキャラ「ルー大柴」である。英単語を交えた自信満々なトーク。「トゥギャザーしようぜ!」のキャッチフレーズで、30代後半になった1990年代には一気に知名度がアップした。
そんな著者が茶道を真剣に始めたきっかけは、周囲の人も著者自身も、「ルー大柴」というキャラに飽きてしまったことだ。しかし、いちど確立されたキャラは、すんなり変えられない。ピークを過ぎてからは仕事も減っていった。
大きな転換点となったのが、2007年にNHK「みんなのうた」で放送された『MOTTAINAI〜もったいない~』の歌手を務めたことである。「エコロジーのことを考えて、もったいないことをなくそう」。そんなメッセージが込められた曲を歌うことで、それまでのエゴイズムが強いルー大柴のキャラとは違う、社会性のある一面を出せたのだ。
しかし、それでもなお、人々が知っているルー大柴は「動」の部分。それは著者のなかの10分の1でしかなかったという。次は「静」の部分もきちんと伝えていきたいと願っていたところ、マネージャーがすすめてくれたのが茶道である。
著者は一回体験して、つい月謝を払うことになった。そして、月謝がもったいないので、少しだけ頑張ってみた。そのまま数回通うと、また次の月謝を払ってしまう。そんなことを繰り返していると、2013年には師範の許状をもらっていた。茶道を始めて、「動」の部分だけでなく「静」の部分も豊かになっていったことで、著者は以前よりも生きやすくなったという。
ティー道で決められている一つ一つの所作、多岐にわたる茶道具、季節感あふれる床の間の飾り、茶室の造り、茶室をとりまく庭の風景。そのすべては客人をもてなすためにある。ティー道の基本は、「おいしいティーを飲んでもらいたい」と心を込めるためのテクニック総集編といえる。
もてなす側は、客人を迎えるために自分が用意しておいた掛け軸、生け花、お茶碗など、事前に作者や花の名前、背景のストーリーを調べておき、トークに備える。何を聞かれてもアンサーできるように脳内でシミュレーションしておくとよい。
そして、もてなされる側は、静かにお茶を楽しんでもよいが、茶室のなかで目についたポイントについて遠慮せず尋ねてみるとよい。尋ねられた方も心の準備はできているので対応しやすく、話が弾みやすい。
相手との距離を縮めるには、「相手に興味を持つ」ことに尽きる。この人はどういう考え方をしているのだろうか。何が好きなのだろうか。それを知るために相手をよく観察することで、多面的な見方が可能となる。
ティー道における会話の順番は、日常の人間関係でも活かせる。初対面の人とは最初、当たり障りのないセオリー通りのご挨拶。そこから「シャツ、クールなデザインですね」などと、相手の持ち物を会話の糸口にするとよい。人は、自分の持ち物に興味を持ってもらえると、うれしくなるものだ。
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