本論に入る前に、野球という競技の独自性を知っておこう。サッカーやバスケットボール、バレーボールといった主要な球技の多くは、相手の陣地(ゴール)までボールを運び、落とすか入れることで得点となる。一方で野球は、走者がホームベースを踏むことで得点が入るルールだ。ボールは関係ない。野球は「3アウトになるまでに塁を4つ進むと得点できるイニングを9回繰り返していく」という、すごろくやボードゲームの要素が強い、極めて独特なスポーツである。
野球で活躍できる選手とは、攻撃ではより得点を増やし、投球・守備では失点を減らすことができる選手だ。セイバーメトリクスとは、統計・数値からこの観点を追求し、選手の評価や戦略を分析する手法のことだ。近年、当然のように行われるようになっている。
具体的には、打者であればアウトにならないほど良く、長打で塁を稼げるほど良い評価となる。なぜ出塁率が重要かというと、アウトにならない率と等しいからだ。ホームランはそれ1本で得点になるし、二塁打や三塁打も走者をホームに生還させられる上、打者自身が塁に残ってさらなる得点機会を作り出せる。
一方で打率は、セイバーメトリクスにおいては重要ではない。なぜなら、シングルヒットもホームランも同じようにカウントされるため、打率が高いことがすなわち得点を増やすことに直結しているとはいえないからだ。
最高のチームバッティングは、ホームランを打つことだ。しかしホームランだけを狙うと簡単に空振りをするし、三振してしまいかねない。一方で三振を恐れて当てに行くだけのバッティングをしていると、投手に恐怖を与えられないし、野手が前に出てくるのでヒットすら打ちづらくなる。
このように野球は、相反する要素の両立が求められる場面が多く、そのバランスが勝敗のカギを握っている。0か100かの二元論ではなく、常に最適なバランスを探っていかなければならないスポーツなのだ。
最適なバランスは、80~90パーセントであることが多い。とはいえ、時には0か100に振り切ってしまうこともあるだろう。そうしたケースも鑑みてバランス感覚を磨き、臨機応変に判断、実行できるようにならなければならない。
投手にとって一番大事なことは、失点を抑え、アウトを多く取ることだ。そのために投手は、自分が得意な球種・コースと打者が苦手な球種・コースを組み合わせて勝負していくことになる。つまりピッチングの本質は、投手が持つカードの数や質を活かして結果を最大化することにある。
ただし、手持ちのカードを増やすことにもリスクがある。
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