AIについて語るとき、ディープラーニングや深層強化学習といったテクノロジー面に焦点が当てられがちで、専門外の人間からするとわかりにくいところも多い。しかし経済学の観点からAIを「安価な予測マシン」と捉えると、その本質が理解しやすくなる。
AIがもつ予測精度は、いま驚異的な速度で進化している。予測のコストがこのまま下がり続ければ、予測が役に立つ活動は増え続け、応用範囲は広がっていく。予測のコストが下がると、その「補完財」であるデータやセンサーの価値も高まっていくことになる。
AIには大量のデータが必要なので、データの価値は高まる一方だ。AIが普及するにつれ価値が高まるデータを、「新しい石油」と呼ぶ人たちもいる。たとえばアップルウォッチの心拍数を計測するアプリは、大量のデータを予測マシンと結びつけることで、心臓発作の兆候を予測できる。このような機械学習による予測精度は、従来型の統計にもとづくデータ処理モデルとは比較にならないほど性能がいい。その結果「知能」と呼ばれるまでに予測マシンは進化したといえる。
データは統計学的に収穫逓減(ていげん)の法則にしたがうため、データが大量にあればあるほど、その価値は下がることになる。しかし大量のデータ保有は、提供するサービスにわずかな違いを生み出す。その僅かな違いが、大きな競合優位を築くこともある。
急速な進化を遂げたAIだが、万能とはいえない。人間に欠点があるのと同様に、機械にも欠点がある。最大の効力を得るためには、人間と機械の役割を分担し、分業することが欠かせない。
複数の要因が複雑に絡み合う場合、たとえ専門家であっても人間は誤った予測をしがちだ。逆に予測マシンも、事象の発生度合いが低い場合や、因果推論の問題が発生するような場合では限界がある。
人間と機械は、間違え方のタイプが違う。ゆえに組み合わせることで、お互いの弱点を補完し合えるのだ。両者の適切な組み合わせが実現すれば、人間が機械の予測を改善し、機械が人間の予測を補えるようになるだろう。
私たちは、私生活においてもビジネスにおいても数多くの意思決定(決断)を行なっている。多くの場合、意思決定が行われるのは不確実な状況だ。機械学習が進化したいま、意思決定において予測マシンを効果的に活用することが求められる。だがそのためには、意思決定する際の決断の構造をまず確認しなければならない。
決断するためには、結果を予測し、判断することが求められる。そしてそれにもとづき行動に移る。予測は入力データや行動の結果から得られるフィードバックにより訓練され、精度が向上する。つまり決断は予測の他にも、入力、判断、行動、結果、フィードバック、訓練という6つのタスクから成り立っているといえる。
決断するにあたって、AIの得意な予測が重要な役割を果たすのは間違いない。しかし判断や行動については、依然として人間のほうが得意としている。予測の精度が向上しそのコストが低下すれば、人間の判断や行動の重要性はむしろ以前より増すはずだ。
とはいえ人間の判断には、どうしても時間と労力が必要となる。
3,400冊以上の要約が楽しめる