著者にとってはどんなビジネスも「実験」である。著者は実験が大好きで、ずっと実験を続けていきたいくらいだという。
「これをやったらどうなるんだろう?」「たしかにそれ、おもしろそうだよね」と多くの人が思いつつ、実現されていないことはたくさんある。著者にとっての「実験」とは、そうしたことを実際にやってみることであり、それが新しいサービスを生みだす原動力となっている。
実験に成功すればお金持ちになれるかもしれない。だが著者個人としては、実験の成否はさほど重要ではない。それよりもただ「結果」が見たいのだ。失敗も無駄ではなく、ひとつの「検証結果」として「価値」になると考えている。
著者は高校生から大学生にかけて、さまざまなサービスで稼いでいた。たとえば原宿に通って人気ブランドのTシャツを購入し、1枚あたり2万円を上乗せして売っていた。地方在住の翻訳者をリスト化し、「立派な翻訳会社」のようなホームページを作って仕事を受注したこともあったし、留学経験者を集めて留学相談サービスを提供していたこともある。当時はちょうど起業ブームで、大学卒業後は起業するつもりだった。
考えが変わったきっかけは、ある上場企業の社長と出会ったことだった。その社長は、起業したら大企業とも取引することになるのだから、大企業に入社して仕事の進め方を学んだほうがいいと助言してくれたのだ。著者は納得し、外資系の広告代理店に入社してビジネスの仕組みを学んだ。
広告代理店で3~4年働いた後、カーシェアリングサービスで起業した。レンタカーではなく、個人の自家用車を借りられるサービスだ。本書執筆時から10年ほど前の話である。
これは結果として、ビジネスとしては早すぎた。SNSもろくにない当時にあって、非常識に過ぎたのだ。この経験から、ビジネスを起こす際には「市場選択」と「タイミング」が重要だということを身をもって学んだ。
カーシェアリングサービスの後は、小さいサービスをいくつか低空飛行させながらなんとか食いつないでいた。起業家として初めての成功体験となったのは、STORES.JPという、簡単にネットショップを立ち上げることができるサービスだ。このサービスには、今までとはまるで違う反響があった。
この経験から、これからは「お金」をテーマにビジネスをするのが一番おもしろいのではないかという、後に続く気づきを得られた。STORES.JPで販売した商品の売上を翌日に現金化できるボタンを設置したら、手数料がかかるにもかかわらず、みんながこぞってこのボタンを押していたからだ。「世の中の人はこんなにすぐお金が欲しいんだ」と気づかされた。
メルカリがブレイクしたことも大きかった。メルカリの平均販売単価はたったの3000円から4000円。しかも「受け取り通知」や「振込申請」などの過程が必要で、お金を受け取るまでに時間がかかる。この流れを短縮し、すぐにお金を渡すような仕組みはできないか。そう考えて生まれたサービスが「CASH」だった。
CASHは、ユーザーがモノの写真を撮って登録するだけで、モノをお金に換えることができるサービスだ。瞬時に査定額が表示され、その金額がアプリにチャージされる。チャージされたお金は、銀行やコンビニで現金として受け取れるようになっている。ユーザーはその後、お金に換えたいモノをCASHに送る。
CASHでは、モノの品質を確認してからお金を支払うわけではない。だからモノの品質がいいという保証はないし、ニセモノである可能性もある。モノを約束通り送ってこない人すらいるかもしれない。
このサービスは、普通に考えれば破綻する。しかしそれは、ほとんどのビジネスが「すべての人を疑う」という前提によって成り立っているということだ。CASHは、この逆を行く。これは性善説に基づいた、「信用で成り立つビジネスモデル」の実験である。
もちろんリスクはある。
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