私たちが生きている資本主義社会は、既に限界を迎えている。大量生産・大量消費を繰り返しながら成長を遂げる経済モデルが、まわらなくなってしまった。欲望を追求してきた結果、社会には大きな格差と分断が生まれている。さらには、さまざまな環境問題が起こり、地球崩壊のリスクも直視せざるを得ない状況だ。最も大きな問題は、こうした経済活動の中で、「人間らしさ」や「人とのつながり」が失われてしまったことである。
私たちは、モノを買うとき、お金(貨幣)だけに交換価値があると考える。そのため、貨幣を得ることが人生の目的かのように錯覚しがちだ。だが、貨幣経済がインフラになる前には、物々交換が当たり前だった。「お互いさま」「おすそ分け」の精神による「贈与の経済」もあった。そうした時代のほうが、モノを介して人とのつながりを感じ、人間らしい活動ができていたのではないか。
現在の貨幣経済がつながりを希薄にし、孤独をもたらす原因ともなっている。今や年間3万人もの人が孤独死する時代だ。そんな状況下で、シェアリングエコノミーは、資本主義が招いたこうした問題の解決に役立つ。さらには、人間が人間らしく生きることができる、持続可能な社会のインフラとなる。
近年、個人と個人がインターネット上で直接つながり、企業を介さずに、情報やモノをやり取りできるようになった。「組織」から「個人」へのパワーシフトが起きている中、「豊かさ」の概念そのものにも、パラダイムシフトが起こっている。「豊かな人」のロールモデルが、「内面的にも満足し、他者とのつながりをもって信頼を得ている人」になりつつある。物質的な充足は個人で満たせても、心の充足は他者との関係性からしか生まれない。「私」ではなく「私たち」という価値観こそ、シェアという思想の最も核となる部分だ。
シェアの原風景は、かつての「長屋文化」にある。お隣さんとお醤油を貸し借りし合う暮らしのベースには、個人と個人のつながり、つまり信頼関係があった。近年になってシェアが注目されている背景には、そうしたやり取りが、テクノロジーの発展によって容易になったことがある。
その延長線上で誕生したのが、「CtoC」というシェアリングエコノミーのモデルだ。個人が使っていないモノやスペースなど、あらゆるものが商品になり、私たち個人がサービスを提供できるようになった。こうして、宿泊場所を提供したいホストと宿泊したい人を結ぶ「Airbnb」のようなシェアプラットフォームも、一気に広まってきた。
シェアから生まれる最大の価値は「つながり」だ。現在は、個人の資産とされてきたお金や社会的ステータスと同じように、「つながり資本」が価値をもっている。アメリカの政治学者ロバート・パットナムは、信頼や「お互いさま」といった互酬性の規範、人や組織間のネットワークを「ソーシャルキャピタル」と呼ぶ。そしてこれは、個人にも社会にも利益をもたらすという。
つながりが人の幸福や安心に直結するという事実は、すでにさまざまな調査・研究からも明らかだ。アメリカのある研究では、つながりの関係が少ない人は多い人に比べ、死亡率が2倍になることがわかっている。一方、内閣府の調査では、この30年で一人あたりのGDPは2倍近くに伸びたにもかかわらず、生活の満足度は上がっていないという結果が出ている。
シェアの時代には、飛び抜けてコミュニケーションが上手な人ばかりでなく、誰でも今以上の「つながり」がもてるようになる。たとえば、海外旅行の際にAirbnbを利用したとする。ホストと一緒にビールを飲んでSNSでつながり、次にその国に行くときにはもう友だちのような関係になっている、ということも珍しくない。このように、つながりをつくるきっかけとして、シェアリングエコノミーが果たす役割は大きい。
シェアによって、私たちの生き方はどう変わるのか。まずは、「働く」という概念そのものが変化する。たとえば、仕事をしたい人と依頼したい人をマッチングする「クラウドワークス」といったスキルシェアサービスが登場した。これにより、「会社に勤める」という形にとらわれる必要がなくなってきた。個人で稼ぐハードルが下がれば、子育て中の専業主婦や高齢者、障害者など、何かしら制約をもっている人も働きやすくなる。
著者自身、もともとはごく一般的な会社員で、会社と自宅を往復するだけだった。だが今は、法人組織の社員でありながら、同時に個人事業主として政府や複数のクライアントとつきあい、シェアサービスを通じて収入を得ている。さらには、自分で起業した組織の代表も務めている。働く拠点も日々変わり、Ciftのワーキングスペースをはじめ、複数の場所を行き来しているのが現状だ。
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