旅行でも引っ越しでも、とにかく移動していくことにより、人生がより豊かになっていく。これが本書のテーマだ。
テレビのワイドショーでは、妬みからだろうか、成功した人が何か失敗するとよってたかって叩かれる。ツイッターではユーザー同士が罵倒し合っている。とにかく「憎しみ」が蔓延しているようだ。
こうした、人が憎しみ合い、人と人を比べ、人に優劣をつける行為の起源は、「定住」にあるのではないだろうか。農耕がはじまり、定住したことにより権力が生まれた。領土という概念も、定住によって生まれたものだ。農耕によって余剰の食べ物が生まれ、納税という概念もできた。そしてヒエラルキーが生まれたのだ。
著者の移動人生が始まったのは、38歳のときのことだった。東日本大震災を機にハワイに移住したが、それまでは出版社で編集をしていた。出張も滅多になく、年に1回大阪に行くのでさえウキウキしていたくらいだ。
移住を機に当然、独立することになる。独立してからは毎週のように東京、大阪、福岡と飛び回り、毎月ハワイと日本を往復するようになっていった。さらにはサンフランシスコに拠点を増やしたり、コミュニティを主宰するようになったりと、海外にもいろいろな場所が加わった。こうして毎週の国内出張、月2回の海外往復をする生活を送ることになった。
移住と独立をきっかけに、会社員時代には見えなかった自分の可能性に気づけた。「定住」「安定」の環境にいる会社員時代は、その環境内でのキャラクターで生きていただけ。そのキャラクターは、完全に固定されてしまっていた。
「定住」「安定」の外に出ると、環境そのものが流動的になり、キャラクターも変化する。すると人生も変わるし、能力も変わっていく。逆に言えば、「定住」「安定」は私たちの能力を制限し、人生を徹底的につまらないものにしているのだろう。
私たち人類が「定住」を選んだのは、「安定」が欲しかったためだろう。私たちはいまだに「安定」を欲してしまうようにできている。安定は制限とイコールなのに、それでも「安定」を求めるのだ。とくに日本にはその傾向が強い。中学生のなりたい職業の第1位が公務員だということが、この傾向を体現している。
この傾向が根付いているのは、安定を求めるような教育を受けているためだ。この教育により、自分自身に制限をかける人間が作られている。多くの会社員、学校の先生、生徒、親はそういう人間である。そんな環境において、安定志向はどんどん強化されていく。視野もどんどん狭くなっていく。
そんな人生を変えるには、環境を変えるしかない。環境を変えるのは、移動だ。移動することで今までと違う景色が見えるようになり、それまで狭い世界に閉じ込められていたことに気づくようになる。
制限のない、本来の自分の人生を取り戻すには、安定が大事だと植え付けられてきた脳に「移動」という刺激を与えることが必要だ。
引っ越しすらできないなら、人生は変わらない。なぜなら、人の行動は環境によって決まるからだ。環境を変えるにあたって、一番手っ取り早く、インパクトも大きいのが「引っ越し」である。
私たちはなんとなく、勉強して良い学校に入って、良い会社に入って結婚して、子どもを育ててマイホームを買ってという「幸せのレール」を植え付けられている。まるでマイホームを買うのが「一人前になった証拠」とでも言わんばかりに。
しかし人生の豊かさは、「選択肢の多さ」にこそある。
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