著者が在宅介護を担当した緩和ケアの患者グレースは、小柄な体に大きな愛情を秘めた女性だ。グレースの結婚生活は50年以上にもおよんだ。自分の役割を果たし、子どもや孫の成長に喜びを感じる一方で、暴君の夫のためにつらい思いをしてきた。そのため、夫から離れて旅することや、あれこれ指図されず、シンプルで幸せな生活を送ることをずっと夢見てきたのだ。
彼女の夫が終身の老人ホームに入ることを了承したときは、解放された思いだった。しかし、待ち焦がれてきた自由を手に入れてまもなく、グレースは不治の病によって寝たきりになってしまったのである。
グレースは死に直面してはじめて、やりたいことをやる強さを持てなかったことを後悔し、自分に腹を立てていた。世間体を気にして他人に期待されるとおりに生きてきたことは、自分で選んできた道である。先を恐れて何もできなかったことに気づいたのだ。
グレースは最期の日に「自分に正直に生きてちょうだい。他人にどう思われるかなんて気にしないで」という言葉を著者に遺した。
著者が在宅介護の仕事をする中で聞いた最も多い後悔は、「自分に正直な人生を生きればよかった」というものである。そして、自分に正直でいるためには勇気が必要なのである。
30代後半のアンソニーは、危険なほどに向こう見ずで挑戦的な生き方をしてきた。それにより、内臓と手足を痛め、一生つききりの介護が必要となった男性だ。有名な実業家一族に生まれた彼は、ユーモア、茶目っ気があり、知性やチャンスにも恵まれていた。しかし、同時に、自己評価の低さを秘めていた。
回復が見込めないことがわかったアンソニーは、療養施設へ。死が近い老人たちに囲まれて生活することになった。他の年老いた入居者たちは彼をかわいがり、彼は家庭のプレッシャーから解放された。そのせいか、施設に入ることに不満はなかったようだ。
しかし、アンソニーはみるみる明るさを失っていった。外出をしたがらず、何か学んでみたらという提案にも聞く耳を持たない。
他の入居者よりも30歳は若いはずなのに、アンソニーは輝きを失い、老け込み、環境に染まってしまった。数年後に亡くなったが、アンソニーは、施設から外に出ることも、家族の集まりに参加することも拒み、「放っておいてほしい」と言っていたという。
もう人生を向上させる努力をする気力がないことを認めたアンソニーは、大きな恐怖心に支配されていた。決まりきった日課だけで毎日が過ぎていくのは、安全であるが、満足感は得られない。長い間、自分に合わない環境に身を置くと、そこに染まってしまい、本当の幸せと満足感を知る機会を失ってしまう。自分が向かっていきたい方向に合った環境に身を置くことが大切だ。
もうすぐ90歳になるジョンは、不治の病に侵されている。あるときジョンは、自分が抱えている後悔を著者に吐露し始めた。「働き過ぎたから、今、こうして孤独に死んでいこうとしている。引退してからずっと一人だった。そんな思いをする必要はなかったのに」。
ジョンと妻のマーガレットは、5人の子どもを育て上げた。全員が成人し、巣立ったところで、マーガレットは、ジョンに仕事を引退してほしいと話した。豊かな引退生活を送るための十分なお金もあったし、何よりもマーガレットは寂しかった。しかし、ジョンは、それから15年間もの間、引退を望むマーガレットを待たせた。ジョンは仕事も仕事上の地位も満喫していたのだ。
ジョンは妻の寂しさをやっと理解し、引退する決意を伝えたとき、マーガレットは喜びの涙を流した。ところが、それは「1年後に」という条件つきだった。期限まで残り3か月というところで、マーガレットは病気で亡くなってしまう。それ以来、ジョンは罪悪感にさいなまれてきた。
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