本書が提案するのは、「起業して成功するために環境を変えてみよう」というコンセプトだ。これは、「自ら環境を創り出し、環境によって自らを変えよ」という言葉に集約できる。
もちろん、最初から自ら環境を創り出せる人は多くない。したがって、自らの足らないところや弱さを認めたうえで、まずは優れた環境に飛び込んでみるとよい。その後うまく行けば、後から続く人たちのために優れた環境を創る側にまわってほしい、というのが著者の願いだ。
そうしたことを念頭におけば、起業とは、自分たちの事業によって良い会社や社会という環境を創り、多くの人たちに居場所を提供することだと定義できるだろう。
環境を変えるとは、タイトルにもあるように、まず「自分の居場所」を変えることである。くわえて、目的に合わせて環境を育てていくことで、各自の中に眠る創造性や実行力を刺激するという意味も含まれる。これらは「運を上げる」ことにもつながる。
では、起業家にとって最適な環境はどのようなものなのか。それを深堀りするために、環境を次の「4つのP」に分けて考えていく。
・Place:どこでやるか?
・People:誰とつながるか?
・Practice:どう訓練するか?
・Process:どう仕組みを作るか?
本書の主張は、最適な場所(Place)と人(People)を選び、正しく訓練(Practice)をしながらその実践プロセス(Process)を整備しよう、というものだ。
著者は、東京大学のある文京区本郷に引っ越した。この経験も踏まえて、「住む場所を変える」ことを提案している。引っ越しは、一時的に金銭的コストが発生するものの、一回実行すれば、変化への継続的な意思を持つ必要がない。
見逃せないのは、起業で直面する問題は、場所が解消してくれるというケースだ。選ぶポイントとして、「起業家のつながりができる」場所というのが挙げられる。それは特定の地域の場合もあれば、コミュニティの場合もある。著者が提供しているような、起業家支援のプログラムに参加してみるというのも、居場所を変える一手段となる。他の起業家が物理的に近くにいることの効果は見逃せない。
起業前であれば、スタートアップで働いてみるとよい。起業後のイメージを具体化できるうえに、共同創業者が見つかるかもしれない。何より、先輩起業家の近くで働くことが、起業の「代理体験」となり、起業家として成功できるという自信を高める効果がある。また、すでに起業していても、一定期間他のチームとオフィスをシェアして一緒に働くなど、さまざまな手が考えられる。
創造性を育むうえでは、役割が明確ではない「マージナルな場所」こそが重要となる。シリコンバレーの起業物語でよく耳にする「ガレージ」も、マージナルな場所に類似している。使用のルールがなく、人の出入りが自由で、ものが散乱していても問題ない。そのため、実験に適しており、多くの発明が生まれやすい場所だ。
「あなたは、あなたの周りにいる最も近しい人5人の平均だ」という。この言葉のとおり、大きく環境を変えたいのなら、思い切って付き合う人を変えてみるとよい。
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