国家を発展させるうえで、インフラ整備の価値はよく知られている。他方でイノベーションの果たす役割についてはあまり知られていない。イノベーションのタイプによって、経済に与える影響はそれぞれ異なる。本書はイノベーションを(1)持続型イノベーション、(2)効率化イノベーション、(3)市場創造型イノベーションに分類し、それぞれが組織と経済に及ぼす影響について論じている。
持続型イノベーションとは、すでに市場に存在する解決策の改良を指す。ここでのターゲットは、既存のプロダクト/サービスの改善を求める顧客だ。新規の顧客を引き込むのではなく、既存顧客に別のものを提供するのである。
この種のイノベーションは至るところにあり、企業や国家が競争力を維持するうえで非常に重要な役割を持つ。ただしその他のイノベーションとは、経済に及ぼす影響が異なる。既存プロダクトの改良である持続型イノベーションは、もともとそのプロダクトを買う余裕がある人々をターゲットにしている。だからある程度の成長は見込めるが、そもそものターゲットセグメントが小さいため、成長の影響が限定的だ。加えて裕福な市場で消費者を獲得しようとすると、ほかの企業も多く参入することから、一般的に競争は激しくなる。
効率化イノベーションは、企業がより少ない資源で多くのことを行えるようにするものだ。基本のビジネスモデルやターゲットにする顧客は変わらないが、企業が持っている資源をぎりぎりまで活用できるようにする。企業の成長力を高めるうえでは欠かせないイノベーションといえる。
このイノベーションの典型例としては、「プロセス」の変革が挙げられる。プロダクトをどうつくるのか、そこに着目するのだ。効率化イノベーションを進める企業は利益率が上がり、キャッシュフローが改善する。
ただし効率化イノベーションは、組織の生産性にとっては望ましくても、既存従業員にとっては必ずしも喜ばしいとは限らない。また新たな雇用を継続的に生み出してくれるわけでもない。これはきわめて重要な点である。効率化イノベーションは経済の競争力と活力を維持し、将来の投資に必要なキャッシュを増やしてくれるが、成熟した市場における新たな成長エンジンになってくれるわけではないのだ。
新たな市場を創造すること、それが市場創造型イノベーションである。値段が高く複雑なプロダクトを手頃な値段に下げ、多くの人が購入して使用できるプロダクトに変換する。場合によってはまったく新しいプロダクトのカテゴリーを創造することもある。
市場創造イノベーションの持つ力は、他の2つのイノベーションと比べて大きい。市場だけでなく雇用も創造するからだ。市場創造型イノベーションが創造する雇用は「ローカル」と「グローバル」の2種類に分けられる。とりわけローカル雇用とは本拠地の市場で必要な雇用であり、他国には簡単に移転できない。一般的には設計や広告、マーケティング、販売、アフターサービス部門の職がこの範疇に入り、グローバル雇用と比べると給与が高い。
あるプロダクト/サービスを従来は買う余裕のなかった大勢の人たちを、本書では「無消費者」と呼ぶ。無消費者がターゲットになるとき、そのプロダクト/サービスをつくる要員だけでなく、新しい顧客に届ける要員も多く雇用することになる。よって無消費が大きいほど潜在市場は大きく、影響力も大きい。市場創造型イノベーションは、今日の貧困国に繁栄を生み出すもっとも有効な手段のひとつといえる。
繁栄を生み出すには市場創造型イノベーションが重要になるとはいえ、どうすればそのチャンスを見つけられるのか。
3,400冊以上の要約が楽しめる