繁栄のパラドクス

絶望を希望に変えるイノベーションの経済学
未読
繁栄のパラドクス
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絶望を希望に変えるイノベーションの経済学
未読
繁栄のパラドクス
出版社
ハーパーコリンズ・ジャパン

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出版日
2019年06月21日
評点
総合
4.5
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

戦後日本は、貧困にあえぎながらもイノベーションを次々と起こし、今日の地位を築き上げた。その一方で、毎年多額の援助金が注ぎ込まれているにもかかわらず、依然として貧困に苦しんでいる国も少なくない。なぜこのような違いが生まれるのか。

「破壊的イノベーション」を提唱したことで知られ、ハーバード・ビジネス・スクールの教授を務めるクレイトン・M・クリステンセン氏は、本書で貧困の原因と解決策のヒントを鮮やかに示す。曰く繁栄にはパラドクスがあり、貧困を終わらせることだけを考えていても、貧困は終わらないのだ。

「繁栄のパラドクス」を打ち破るためには、継続的なイノベーションが不可欠というのがクリステンセン氏の見解である。その詳細については要約部分に譲るが、重要なのはイノベーションには持続型、効率化、市場創造型の3つがあるということだ。イノベーションという言葉は、魅力的ながらも曖昧である。だからこそ内実をしっかりと見極め、そのときどきの文脈に適したイノベーションを追求しなければならない。90年代以降の低迷し続ける日本経済が復活できるかどうかも、それぞれのイノベーションの特性を理解し、適切に行動できるかにかかっているだろう。

繁栄という捉えがたいものを捉え、そこに至るまでの道筋を示すものとして、折を見て何度も読み返していただきたい名著だ。

著者

クレイトン・M・クリステンセン (Clayton M. Christensen)
ハーバード・ビジネス・スクールのキム・B・クラーク記念講座教授。12冊の書籍を執筆し、ハーバード・ビジネス・レビューの年間最優秀記事に贈られるマッキンゼー賞を5回受賞。イノベーションに特化した経営コンサルタント会社イノサイトを含む、4つの会社の共同創業者でもある。ビジネス界における多大な功績が評価され、「最も影響力のある経営思想家トップ50」(Thinkers50)に複数回選出されている。

エフォサ・オジョモ (Efosa Ojomo)
クリステンセン研究所に所属し、上級研究員として「グローバル経済の繁栄」部門のリーダーを務める。ハーバード・ビジネス・レビュー、ガーディアン、CNBCアフリカ、イマージングマーケット・ビジネス・レビュー等に論文を発表している。2015年、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。

カレン・ディロン (Karen Dillon)
ハーバード・ビジネス・レビューの元編集者。共著書にニューヨーク・タイムズ・ベストセラーの『イノベーション・オブ・ライフ』『ジョブ理論』。コーネル大学、ノースウエスタン大学メディム・ジャーナリズム学院卒業。バンヤングローバル社のエディトリアル・ディレクター。アショカ財団によって世界で最も影響力のある女性のひとりに選出される。

本書の要点

  • 要点
    1
    繁栄を生み出すうえでもっとも有効な手段のひとつが、市場創造型イノベーションである。
  • 要点
    2
    貧しい人々の不便や苦痛を見抜き、彼らにとって入手困難なプロダクト/サービスを安価で提供するイノベーターが、最終的には大きな成長チャンスを手にする。
  • 要点
    3
    発展と繁栄を社会に根付かせたいのであれば、いたずらに資金や制度を押し込む「プッシュ戦略」ではなく、社会が本当に必要とする資源を引き入れる「プル戦略」のほうが効果的だ。
  • 要点
    4
    イノベーションは制度やインフラに先行する。制度やインフラが整っているからイノベーションが起きるのではない。

要約

イノベーションの種類

持続型イノベーション
Urupong/gettyimages

国家を発展させるうえで、インフラ整備の価値はよく知られている。他方でイノベーションの果たす役割についてはあまり知られていない。イノベーションのタイプによって、経済に与える影響はそれぞれ異なる。本書はイノベーションを(1)持続型イノベーション、(2)効率化イノベーション、(3)市場創造型イノベーションに分類し、それぞれが組織と経済に及ぼす影響について論じている。

持続型イノベーションとは、すでに市場に存在する解決策の改良を指す。ここでのターゲットは、既存のプロダクト/サービスの改善を求める顧客だ。新規の顧客を引き込むのではなく、既存顧客に別のものを提供するのである。

この種のイノベーションは至るところにあり、企業や国家が競争力を維持するうえで非常に重要な役割を持つ。ただしその他のイノベーションとは、経済に及ぼす影響が異なる。既存プロダクトの改良である持続型イノベーションは、もともとそのプロダクトを買う余裕がある人々をターゲットにしている。だからある程度の成長は見込めるが、そもそものターゲットセグメントが小さいため、成長の影響が限定的だ。加えて裕福な市場で消費者を獲得しようとすると、ほかの企業も多く参入することから、一般的に競争は激しくなる。

効率化イノベーション

効率化イノベーションは、企業がより少ない資源で多くのことを行えるようにするものだ。基本のビジネスモデルやターゲットにする顧客は変わらないが、企業が持っている資源をぎりぎりまで活用できるようにする。企業の成長力を高めるうえでは欠かせないイノベーションといえる。

このイノベーションの典型例としては、「プロセス」の変革が挙げられる。プロダクトをどうつくるのか、そこに着目するのだ。効率化イノベーションを進める企業は利益率が上がり、キャッシュフローが改善する。

ただし効率化イノベーションは、組織の生産性にとっては望ましくても、既存従業員にとっては必ずしも喜ばしいとは限らない。また新たな雇用を継続的に生み出してくれるわけでもない。これはきわめて重要な点である。効率化イノベーションは経済の競争力と活力を維持し、将来の投資に必要なキャッシュを増やしてくれるが、成熟した市場における新たな成長エンジンになってくれるわけではないのだ。

市場創造型イノベーション
arthobbit/gettyimages

新たな市場を創造すること、それが市場創造型イノベーションである。値段が高く複雑なプロダクトを手頃な値段に下げ、多くの人が購入して使用できるプロダクトに変換する。場合によってはまったく新しいプロダクトのカテゴリーを創造することもある。

市場創造イノベーションの持つ力は、他の2つのイノベーションと比べて大きい。市場だけでなく雇用も創造するからだ。市場創造型イノベーションが創造する雇用は「ローカル」と「グローバル」の2種類に分けられる。とりわけローカル雇用とは本拠地の市場で必要な雇用であり、他国には簡単に移転できない。一般的には設計や広告、マーケティング、販売、アフターサービス部門の職がこの範疇に入り、グローバル雇用と比べると給与が高い。

あるプロダクト/サービスを従来は買う余裕のなかった大勢の人たちを、本書では「無消費者」と呼ぶ。無消費者がターゲットになるとき、そのプロダクト/サービスをつくる要員だけでなく、新しい顧客に届ける要員も多く雇用することになる。よって無消費が大きいほど潜在市場は大きく、影響力も大きい。市場創造型イノベーションは、今日の貧困国に繁栄を生み出すもっとも有効な手段のひとつといえる。

【必読ポイント!】 市場創造型イノベーションのパワー

見えないものを「見る」

繁栄を生み出すには市場創造型イノベーションが重要になるとはいえ、どうすればそのチャンスを見つけられるのか。

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要約公開日 2019.07.08
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