本書のタイトルは「サイボーグ時代」。テクノロジーを日常生活にうまく取り入れ、いままでできなかったことやこれまで当たり前だったことを更新し続ける時代だ。
テクノロジーとはよくわからない先端技術ではなく、人間の行動と選択肢を広げてくれる便利なツールのことである。著者の吉藤オリィ氏は、「障害」という言葉を「やりたいのにできないこと」と定義する。それは「眼が見えない」とか「歩けない」といった身体に限った話ではなく、海外にいるため友人の結婚式に出席できないといった「物理的距離」も含まれる。
大切なのは「自分がやりたいことはなにか」を考え、その意思にもとづいて自分にとって役立つ適切なツールを見つけ(あるいは自分で生み出して)、生活や人生になめらかに融合させることである。言い換えれば「できない」と思っていたことを、テクノロジーの力を借りて「できる」ようにすること、それが「サイボーグ化」なのだ。
オリィ氏が所長を務めるオリィ研究所では、OriHime(オリヒメ)と呼ばれる、片手で持てるサイズの遠隔操作ロボットをつくっている。テクノロジーを駆使した、いわば「もうひとつの身体」だ。
病院や自宅から出られない人でもこのロボットを操作すれば、内蔵カメラから周囲の様子を見られるし、マイクやスピーカーを使って会話もできる。脊髄損傷で寝たきり生活を送っているオリィ氏の友人は、あごで操作できるパソコンでOriHimeを使い、著者とともに講演活動などを行なっていた。重度障害で体が動かなくても、社会に参加できたのだ。
また「OriHime eye」というツールを使えば、眼球の動きだけでパソコンが操作できる。ALS(筋萎縮性則索硬化症)のように全身が動かせなくなる病に侵されても、パソコンで絵を描いたり、テレビのチャンネルを替えたりすることもできる。
さらにまだ開発途上だが、「OriHime-D」というロボットもある。これはOriHimeを大きくし、移動してモノを持ち運べるようにしたもので、重度の障害を抱えている人でも「誰かに飲み物を出す」といったことを可能にするロボットだ。
こうしたロボットをつくっているのは、どんな人でも「できる」を増やしていけば、未来に対してポジティブになれるという考えがあるからである。
オリィ氏の掲げるミッションは「孤独の解消」だ。人が孤独にならずに生きるには、他者から必要とされ、あるいは喜んでもらえる機会をつくることが大切になる。そこにあるのは、難病患者であっても高齢者であっても、他者から「ありがとう」と言ってもらえる社会を実現したいという思いだ。
「ありがとう」という言葉はお金と同じである。自分が言ってばかりでは心の負債となり、社会や世間に対して申し訳ないという気持ちばかりが強まり、逆に孤独になってしまう。
「サイボーグ的に生きる」という発想も、孤独の解消のために生まれた。オリィ氏のいうサイボーグとは、身体に機械を取り付けることだけを意味しない。適切なツールを選択し、他者の知識や経験を自分の能力の一部としてうまく取り入れることも含む。たとえば足が動かなくても車椅子を利用すれば外出できるように、生まれ持った自分の能力だけでうまくコミュニケーションできないなら、SNSやOriHimeで会話したり、連絡先を交換したりすればいい。
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