本要約では、組織開発がどのようにして生まれ、どんな思想を育んできたのかという組織開発の歴史をひも解く第2部、組織の概念と組織開発の手法の発展の軌跡を解説する第3部の前半部分にフォーカスする。
著者らは、組織開発の理解は「3層」で行うのがよいという仮説を提唱する。第1層(最下層)は、組織開発を下支えする哲学的・思想的基盤である。本書で紹介される哲学は、組織開発のためだけに生まれたのではない。だが、組織開発という営為が形成されていくうえで、これらの哲学的・思想的基盤が必要であったというのが著者らの仮説である。
第2層(第1層の上部)には、「集団精神療法」が来る。組織開発の発展には、心理劇・ゲシュタルト療法などの「集団精神療法」が大きな影響を与えた。
最後に第3層は、第1層の哲学、第2層の集団精神療法の上に開花した「組織開発の独自手法」がくる。具体的には、Tグループ、感受性訓練、サーベイ・フィードバックなどの手法である。
のちの組織開発に大きな影響を与えることになる哲学者。それは、ジョン・デューイ、エドムント・フッサールである。そして、精神分析学者としてジクムント・フロイトがいる。
デューイは20世紀を代表する哲学者である。1900年代に、人文社会科学、哲学、教育学に対して多大な貢献をした。彼は「経験こそ学習の源泉になる」と主張する。人間は、一段上(メタ)に上がって経験を対象化し、リフレクション(反省的思考)を通して学習し、変化することができるというのだ。
つづいて、フッサールは、デューイと同時代に生きた偉大な哲学者である。彼の主張で組織開発に関係するものは、人々の「今-ここ」の経験を意識化することから思考は始まるという点である。組織開発では、「今-ここ」の経験や出来事に焦点を当てて対話し、グループや個人に変化をもたらす場をつくり出す。
最後に、フロイトは、「私たちには、普段見えない世界(無意識)があり、無意識下にある抑圧を顕在化していくことが、病理の治療(改善)につながる」と主張する。組織開発とは、グループの意識があまり向かない「抑圧」的なものに対して、グループで向き合い、対話を通して解決していく営為である。
このように三大賢人の思想が組織開発の哲学的な基盤となっている。
著者らは、「グループの力」を利用して、グループやグループのメンバーの改善や治療を行うものを「集団精神療法」と定義する。「集団精神療法」が生まれたのは第1次世界大戦の頃だ。この戦争を通じて、大量のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者が生まれた。PTSDとは、強烈なショック体験によって、時間が経った後でもその経験を想起し、強い恐怖を感じてしまう精神障害である。
こうした時代背景下で、集団精神療法の原型とされる2つの代表的実践が生まれた。ヤコブ・モレノの創始した「心理劇」、そして、フレデリック・パールズが始めた「ゲシュタルト療法」である。
心理劇では、フロイトがいうところの「抑圧(抑圧経験)」を、「演じること」を通して見える化し、グループでの振り返りによって治療につなげる。これに対しゲシュタルト療法は、ゲシュタルト(意味のある要素のまとまり)の作れない人や、ワンパターンなゲシュタルトしか作れない人に、新しくゲシュタルトを作り直したりするような、創造のための「刺激」を与える療法である。どちらも、ネガティブなものに向き合う時は、感情が激しく揺さぶられるため、心理的に傷つく人が出てくる可能性がある。よって、ファシリテーターには、グループの話し合いをポジティブな方向にもっていくことが求められる。
組織開発の3層モデルの3層目は、独自手法の発展である。本要約では、この3層目に特に焦点を当てる。
1940年代に、Tグループなどの組織開発につながる重要な概念やツールを生み出したのが、クルト・レヴィンである。Tグループとは、「ラボラトリー・トレーニング」または、非構成的な「ラボラトリー方式の体験学習」などと呼ばれる、人間関係のトレーニング方式だ。これは、レヴィンの機転によって生み出された「偶然の産物」であった。
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