渋沢百訓

論語・人生・経営
未読
渋沢百訓
渋沢百訓
論語・人生・経営
未読
渋沢百訓
出版社
出版日
2010年10月25日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

平成から令和への改元とほぼ同時に、紙幣の刷新が発表された。新1万円札には渋沢栄一という人物。確か歴史の授業で名前を聞いた気がするけど……と頭をひねった人も多いのではないだろうか。

渋沢栄一は江戸時代末期に生まれ、明治維新後の日本実業界の根幹を築いた人物だ。幕臣から新政府の役人になり、退役してからは民間経済人として活躍した。彼が設立に携わった企業は500ほど。教育機関や公共事業の支援も行い、「日本」という新しい国造りに生涯を捧げた。日本が欧米列強に侵食されることなく、経済大国として躍進できたのは、彼の活躍があったからだろう。

本書は、そんな偉大な渋沢栄一本人による“談話集”である。明治45年に発行された著書『青淵百話』から57話を抽出したもので、人生訓やビジネスに関係する話題を中心に構成されている。1トピックが短く、それぞれに完結しているので、興味のあるところから開いてもよい。内容は、「天命とは何か」という哲学的なものから会社運営に対する具体的なアドバイス、そして「逆境に遭ったらどうする?」というような、人生相談的なものまで様々である。読み進めるうちに、渋沢栄一という人物が、まるで身近なメンターのように見えてくるのが不思議だ。

まずは気負わず本書を開いてみて欲しい。彼は、私たちに温かく、時に厳しく語りかけてくれる。ビジネスに、人生に必要なものは何かと。それらは決して古臭くなく、混沌とした現代を生きる私たちを勇気づけてくれる。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

渋沢 栄一(しぶさわ えいいち)
1840年、現在の埼玉県深谷市生まれ。一橋家の家臣、ついで幕臣となる。67年徳川昭武に随行してヨーロッパ諸国を歴訪。維新後、69年明治新政府に仕官。民部省、大蔵省に属した。73年健全財政を主張して辞任後は、第一国立銀行をはじめ指導的立場で500社前後の企業の創立・発展に貢献した。また、商工業の発展に尽力。経済団体を組織し、商業学校を創設するなど実業界の社会的向上に努めた。70歳で退任した以降は、社会公共事業の育成発達に努め、国際親善に力を入れた。1931年没。

本書の要点

  • 要点
    1
    渋沢栄一は『論語』を人生のバイブルとし、社会のため、人のために生きた。
  • 要点
    2
    真の成功とは、社会に利益をもたらすことをして金を得ることだ。
  • 要点
    3
    論語(道徳)と算盤(商売)は相対するものではなく、両立すべきものである。
  • 要点
    4
    結果だけを見て成功か失敗かを判断してはいけない。莫大な富を得ても、道理に適わない方法をとったなら、それは成功と呼べない。
  • 要点
    5
    至誠を忘れなければ、どんなに無口で交際下手な人でも、必ず気持ちは通じる。

要約

【必読ポイント!】論語

社会に貢献して生きる
Torsakarin/gettyimages

人としてこの世に生を受けたなら、生きていく目的を持たなければならない。その目的次第で人生観も変わってくるはずだ。

人生観は大まかに客観と主観の2つに分けられる。客観とは、まずは社会を第一とし、自己の存在を第二とする人生観である。対して主観は、何事も自分本位で、自己のためには社会をある程度犠牲にしてもよいという考え方だ。

客観的な人生とは、自身の技量を活かして社会に貢献する生き方である。それも漠然と思うだけでなく、何かしら行動で示さねばならない。学者なら学者として本分を尽くし、軍人ならその任務を果たすというように、各自の能力を最大限に使って社会のために尽くすのだ。

一方、主観的な者は、自分や自己の利益のことしか考えない。このような者たちの考えも理解できないではないが、そのスタンスにこだわりつづけるようであれば、国や社会は荒れ果て衰退していくことだろう。

孔子の教えに「仁者は己立たんと欲してまず人を立て、己達せんと欲してはまず人を達す」というものがある。自分を立てたいならまず他人を立てよという教えだ。人生とは、このようにあるべきだと思う。

また孔子は、「克己復礼」とも説いている。自己のわがままな心に打ち勝って、礼に従っていけば間違いないという意味である。これも先の客観的人生観に合致している。

私(著者)は論語をバイブルとし、自分は社会のため、人のために存在しているのだという思いで生きてきた。この心は今後も変わることはないだろう。

利益を独り占めしない

私は実業家であるが、大金持ちになることは悪いことだと考えている。一見矛盾しているようだが、常に「淡白」を信条として生きているので、富に対する考えもそのようなものだ。

少しでも多く貯金したい、金持ちになりたいという欲を持つことは普通のことである。だが、これにはキリがない。10万の次は100万、そして千万、一億と増えていく。このことから、もし一国の財産を一人が所有したらどのような惨事になるか想像できるだろう。ゆえに、自分は大富豪になりたいとは思わないし、人にも勧めない。

人間に生まれたなら、意味のある人生を送るほうが良い。ではその意味とは何か。もし実業家として生きるなら、自身の学術知識を利用して楽しく働くことが、価値のある人生と言えるだろう。つまり、財産をたくさん持つことなく、仕事は愉快にやるということだ。それゆえ私は、独力経営の利殖法を避け、複数の合資協力で成る株式会社や合資会社を立ち上げてきた。利益を独り占めせず、皆でその恩恵に預かるためだ。

人は大金を持たずとも、相応の知恵と愉快な働きをなし得るだけの資産があれば、他人の財産を運用できる。このようにすれば、国家社会に利益をもたらす仕事はいくらでもできる。手段を選ばず道理に適わないやり方で儲けても、それは成功とは呼ばない。社会に利益をもたらすことをして金を得ることこそが、真の成功なのである。

論語と算盤は一致すべきもの
marchmeena29/gettyimages

私の持っている画帖の中に、論語と算盤を描いたものがある。論語は道徳上の経典であり、算盤はそれと対極にある貨殖の道の道具である。両者はいかにも対照的であり、この絵は風刺画だと思う人もいるかもしれない。しかし私は、論語と算盤は相一致すべきであると考える。

論語とは、孔子の言行録である。孔子は諸子に教えを説く際、その人物の性格に合わせた教え方をしていたという。後に誤解が生じ、「論語読みの論語知らず」という言葉すら生まれたのはこのためだ。

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要約公開日 2019.06.29
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