「メンバーにとって良かれと思ってやったことなのに裏目に出た」。「メンバーを傷つけてしまった」。こんな経験をしたことはないだろうか。
それはメンバーとの解釈にズレが生まれてしまったからだ。人は「無意識の偏見」「無意識の思い込み」「無意識の偏ったものの見方」にとらわれている。これを「アンコンシャス・バイアス」と呼ぶ。
アンコンシャス・バイアスの正体は、「自己防衛心」である。脳がストレスを回避するために、無意識のうちに、自分にとって都合のよい解釈をすることで、思い込みが起きてしまい、解釈のズレを引き起こす。
自分は正しい、悪くない、自分のことをよく見せたい。このような自己防衛心による言動は、自然の摂理であり、誰にでもあるもの。問題なのは、自分のアンコンシャス・バイアスに気づこうとしないことだ。リーダーがその存在に気づき、対処することで、チーム内のコミュニケーションが大きく変わる。
アンコンシャス・バイアスによって引き起こされる問題とはどのようなものか。たとえば、組織においては、人間関係が悪化する、個人や組織のパフォーマンスが悪化する、コンプライアンスの違反行動が生まれる、などである。また、個人においては、否定的になって挑戦できなくなる、イライラが増える、などが生じる。
次はリーダー(A課長)の体験談に基づく実例である。A課長はある会議において、営業成績によってメンバーへの態度を無意識に変えてしまっていた。営業成績がイマイチのメンバーが遅刻した際は、理由も尋ねずに大声で叱責。つづいて遅刻してきたトップセールスのメンバーには、「どうした?」と気遣う言葉をかけた。このことから、メンバーたちは営業成績でしか自分たちは見てもらえていないと感じ取った。そしてその数ヶ月後、怒鳴られたメンバーからは退職願が出され、複数のメンバーからは異動希望が出されたのだ。
このように、リーダーの言動は、人や組織に大きな影響を与える。「自分に無意識の偏見がないだろうか?」「偏ったものの見方をしていないだろうか?」こうしたことに意識を向けることが、組織をよくするための第一歩となる。
自分のバイアスに気づき、そのバイアスが周りにどんな影響を与えているのかを自覚することを、本書では「自己認知」と呼ぶ。リーダーにとって、この自己認知力を高めることは必要不可欠だ。
人は確信めいたものをもてばもつほど、自分の考えに疑いを差しはさまなくなってしまう。しかし「普通はこうだ」「そう考えることは当たり前だ」といった確信の裏にこそ、アンコンシャス・バイアスが潜んでいる。
ここからは自己認知力を高める方法を1つ紹介する。それは、相手の非言語メッセージを意識することである。感情は「快」と「不快」に大別できる。「快」とは嬉しいなどのポジティブな感情である。「不快」とは悲しいなどのネガティブな感情だ。
リーダーはとくに、メンバーの「不快」に目を向けなければいけない。人は不快の感情に包まれていると、なかなか前向きになれず、行動が抑制されてしまう。やがてそれが、さまざまな職場の問題へとつながっていくのだ。
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