著者がホットケーキに魅せられたきっかけは何か。それは、神田須田町にあった「万惣(まんそう)フルーツパーラー」というホットケーキの名店を訪れたことだ。小学生の頃、弟と一緒によく父に連れていってもらったお店で、初めてホットケーキを食べた店でもある。
しかし、「ひさしぶりにホットケーキでも食べよう」と同店に出向くと、2012年に閉店していたことが判明する。著者は「たかがホットケーキ」で、自分でも不思議なくらいショックを受けた。のちに、著者は「万惣には思い出を食べに行っていた。ホットケーキは特別な食べ物だ」と思い至ったのである。
ホットケーキという「昭和の食べ物」は、このままではなくなってしまうかもしれない。そう気付いた著者は、美味しいホットケーキを探し求め、食べ歩きを始めるようになった。
本書の前半では、著者のおすすめする31ものホットケーキ繁盛店がエリアごとに紹介されている。本要約では、その一部をとりあげる。
まずはホットケーキの定義を確認しよう。多くの人は、ホットケーキとパンケーキは何が違うのか、と疑問に思うかもしれない。欧米ではこれらは区別されていないが、日本人は別の食べ物として認識している。
森永製菓によれば、2つの違いは「甘さ」と「膨らみ」だそうだ。大まかにいうと、ホットケーキはふっくらふんわりしていて、甘みのある生地そのものを楽しむもの。一方、パンケーキは、薄い生地自体の味は控えめで、スイーツとしても食事としても楽しめるものである。
昭和の時代、西洋の文明や文化が徐々に入り込んできた。その頃でも、店で食べる西洋の食べ物は、庶民にとっては高嶺の花だった。そこで、自宅でも作れるホットケーキの人気が高まっていった。それを加速させたのが、加糖された「ホットケーキミックス」の誕生だ。
それ以来、ホットケーキは家で食べるものとして認識されるようになり、喫茶店やフルーツパーラーのメニューから消えていくこととなる。しかし、それでもホットケーキにこだわり、家庭では食べられない味を提供する店が残っていった。人気店は、それぞれ独自のこだわりや味、食感、デザインを持ったホットケーキを提供している。
台東区、江東区、足立区、荒川区などが含まれる「下町エリア」。そこでは、ホットケーキを提供するレトロな喫茶店が存在する。とりわけ昔ながらのクラシックなホットケーキが多い。
錦糸町にある喫茶ニットは、錦糸町駅の南口から数分のところにある。赤煉瓦造りの建物に入ると、テレビ撮影でも使われる、レトロ感満点の店内につながる。もとはセーター工場であったが、1964年に改装。40年ほど前、現在のビルに建て替えた頃からホットケーキを提供し始めた。
当時の従業員が「ホットケーキが人気らしい」と、新橋の人気店でレシピを教えてもらい、それがやがて店の名物となった。厚さ3センチはあるホットケーキが2枚で670円。バターが楊枝で刺さっているのがトレードマークだ。外はかためで中はしっとり。甘さ控えめな生地にたっぷりのシロップがよくなじみ、溶けたバターと一緒に食べると実に美味しい。生地をあらかじめつくっておいて寝かせることで、しっとり感が出る。個体差がないようにと、銅のセルクル(型枠)を使って、銅板でじっくり焼いているそうだ。
千代田区や渋谷区、文京区といった東京の中心にある「都心エリア」。このエリアのホットケーキは、モダンで洗練されたものが多い。
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