ゲノム編集の光と闇

人類の未来に何をもたらすか
未読
ゲノム編集の光と闇
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人類の未来に何をもたらすか
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ゲノム編集の光と闇
ジャンル
出版社
出版日
2019年02月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

ゲノム編集を施したヒト受精卵を子宮に戻すことに対して、政府は法規制を検討するという方針を明らかにした――このニュースが報じられたのは、つい最近のことだ。日本ではこれまで、遺伝子改変した受精卵を子宮に戻す臨床研究は指針で禁じられていたものの、医療行為については規制が存在しなかった。だが新しい技術は、往々にして新しい問題を生み出すものだ。いままさに私たちは、そうした問題に対応する制度をつくらなければならない時期に差し掛かっている。

とはいえゲノム編集とは具体的にどのような技術で、どのようなことがなされているのか。そう問われても、説明するのはなかなか難しいのではないだろうか。だがご安心を。本書は専門的な用語やアイデアをできるだけ平易に噛み砕き、イラストを多用しつつわかりやすく説明している。とくに「クリスパー・キャス9」という、効率的かつ手軽で安価な新技術の解説に力が入れられているのがポイントだ。本書を読めば、この新技術によって研究、医療、産業の分野で大きな革新が起きていることが理解できるだろう。

医療にゲノム編集が応用されることで、がんやエイズなどの難病の治療がうまくいく可能性は高まる。その反面、人間への応用には常に倫理的課題がつきまとう。これからの生命倫理のあり方について考えるうえでも重要な一冊だ。

ライター画像
大賀祐樹

著者

青野 由利 (あおの ゆり)
科学ジャーナリスト、毎日新聞社論説室専門編集委員。東京生まれ。東京大学薬学部卒業、同大学院総合文化研究科修士過程修了。生命科学、天文学、原子力などの科学分野を担当。1988-89年フルブライト客員研究員(MITナイト・サイエンス・ジャーナリズム・フェロー)、99-2000年ロイター・フェロー(オックスフォード大学)。著書に『宇宙はこう考えられている』『ニュートリノって何?』『生命科学の冒険』(以上、ちくまプリマー新書)、2010年科学ジャーナリスト賞を受賞した『インフルエンザは征圧できるのか』(新潮社)、『ノーベル賞科学者のアタマの中――物質・生命・意識研究まで』(築地書館)、『遺伝子問題とはなにか――ヒトゲノム計画から人間を問い直す』(新曜社)等。

本書の要点

  • 要点
    1
    ゲノムを自在に編集できるツール「クリスパー・キャス9」は、「狙ったDNA配列を効率よく、正確に、切り貼りできる」「使うのが簡単」「安い」という点で革命的な技術であり、瞬く間に世界中に広がった。
  • 要点
    2
    現時点のゲノム編集技術では、狙いとは異なる遺伝子に変異が生じる「オフターゲット」を完全には排除できないため、臨床への応用はリスクが伴う。
  • 要点
    3
    世界的には病気治療のためのゲノム編集が認められつつあるが、障害や病気のある人が受け入れられる社会をつくることも大切である。

要約

ゲノム編集技術と倫理的課題

ゲノム編集ベビー誕生の衝撃

「できないときに、やってはいけないというのは簡単だった」。ゲノム編集の人への応用と倫理を議論する国際会議で述べられたこの一言は、まさに現状を言い当てている。「中国の研究者がゲノム編集した受精卵から双子の女の子の赤ちゃんを誕生させたと主張している」という特ダネが2018年に報道されると、「重大な倫理違反」として世界中から批判を集めた。

これまでも遺伝子組換え技術はあった。だがいまは以前と比べてもずっと簡単に、細胞の中の遺伝子を狙い通りに操作して、受精卵に意味のある改変を加えられるようになった。これにより「人間の改変」や「人間の選別」だけでなく、親が望み通りの子どもをもうける「デザイナーベビー」の誕生につながるのではないかと指摘されている。

遺伝子組換え技術の誕生
metamorworks/gettyimages

世界ではじめて「遺伝子組換え」を行なったのは、スタンフォード大学の生化学者ポール・バーグだ。バーグは動物ウイルスと大腸菌のウイルスという別種のDNA同士を結合させ、試験管内で人工の雑種DNAをつくった実験により、1980年にノーベル化学賞を受賞した。

「ハサミ」の役割を持った酵素でさまざまなDNAを切り取り、「のり」の役割を持ったDNAリガーゼで連結して大腸菌に戻せば、複製したいDNAを増やしたり、DNAに応じたたんぱく質を大量生産したりできる。ある生物のDNAを別の生物に導入すれば細胞の性質を変えられる。これが遺伝子組換え技術である。この技術は幅広く応用され、病気の遺伝子の解明、人間の全遺伝情報を解読するヒトゲノム計画、遺伝子組み換え農作物の作成など、生命科学の研究だけでなく、医療や産業に欠かせないものとなった。

だがこの技術によって、バイオハザードが生じる危険性も懸念された。たとえば発がんウイルスのDNAを組み込んだ大腸菌や、抗生物質に抵抗性を示す病原体が生み出されたとしたら? 科学者たちは自発的に国際会議を開催し、実験の際に「物理的封じ込め」と「生物学的封じ込め」という2つの方法で安全対策を取るという提案に合意した。

「クリスパー・キャス9」

2人の女性科学者によるゲノム編集ツールの開発
Panuwach/gettyimages

元祖遺伝子組み換え技術の誕生から40年以上経った頃、遺伝子組換えを一新する「ゲノム編集」という技術が登場した。フランス人のエマニュエル・シャルパンティエとアメリカ人のジェニファー・ダウドナという2人の女性科学者が、生物の設計図ともいえるゲノムを自在に編集できるツール「クリスパー・キャス9」(以下、クリスパー)を開発したのだ。「狙ったDNA配列を効率よく、正確に、切り貼りできる」「使うのが簡単」「安い」という点で、従来の組み換え技術を一新するものとして、クリスパーは瞬く間に世界中の研究室に広がった。

クリスパーの仕組みはこうだ。まずハサミを備えた小さな分子マシンである「クリスパー」が、標的とするDNAの配列を検索して見つけ出し、二重鎖をばっさりと切断する。すると切断されたDNAは自然に修復しようとするので、切れたDNAを元通りに修復させないことで遺伝子の働きを失わせる「遺伝子ノックアウト(以下、ノックアウト)」か、別のところからDNAを代わりに持ってきて挿入する「遺伝子ノックイン(以下、ノックイン)」のいずれかを用いる。「ノックアウト」すれば、切断された箇所のDNAがどのような働きをしているのかを調べられるし、遺伝子の変異を品種改良に利用することもできる。一方で 「ノックイン」 では、新しい遺伝子を入れたり、遺伝子変異を修復したりできる。

クリスパーのメリットとデメリット

従来の技術と比べて優れた点が多いクリスパーにも、

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要約公開日 2019.06.07
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