著者ローレンスがスティーブ・ジョブズから声を掛けられたのは1994年末のこと。「ピクサー」で業務を回し、戦略を練り、株式公開まで持っていってくれる人がほしいとのことだった。
ピクサーは「ルーカスフィルム」からジョブズが購入した会社で、ちょうど1年後の『トイ・ストーリー』の公開に向けて制作に集中しているところだった。この映画が完成すれば、世界で初のコンピューターグラフィックスでつくった長編アニメーション映画になるという。
ところがジョブズは、ピクサーのクリエイティビティに惚れ込んではいたものの、「ネクストコンピューター」事業に時間を取られていたため、ピクサーの事業を深く理解することも、ビジョンを描くこともできないでいた。その結果、ピクサーは5000万ドル(約60億円)もの累積赤字を抱えながら、ただただディズニーとの契約を頼りに制作を続けていたのである。
当時のローレンスは、シリコンバレーの株式公開企業でCFO(最高財務責任者)を務めていた。誰もがうらやむ地位である。そのためピクサーを見学したあと、引き受けるかどうかを決めかねていた。しかし最終的にピクサーの「事業にならないけれど、魔法のような才能」に魅せられて、入社を決意する。
1995年2月、ローレンスはピクサーのCFOに着任した。CEOのジョブズ、CFOのローレンス、そしてピクサーの共同創業者であり最高技術責任者を務めるエド・キャットムル、以上3名の経営チームである。だが実質の経営は、ローレンスに委ねられた格好だ。
市場性と成長性を精査したローレンスは、他の事業からは手を引き、長編アニメーションに集中すべきだと考えた。とはいえこの時点では頭を抱えていた。「利益を上げられる事業など、どこをどう探しても出てこない。私は、お先真っ暗だと進言するために雇われたわけではない、ジョブズが欲しいのは前向きな回答だ、だがそれが見つからない」。というのも、長編アニメーションも大きな問題を抱えていたからである。それはディズニーとの契約だった。
ディズニーとの契約では映画の制作を3本請け負い、3本目が公開されたのちに終了する取り決めになっていた。制作に必要な時間を考えると、拘束は今後9年以上に及ぶことは確実である。
制作費用は、定められた上限までであればすべてディズニーが負担する。そのうえで、映画の収益から一定の割合がピクサーに支払われる。だがディズニー側の費用や手数料を差し引くと、最終的にピクサーの懐に入ってくるのは収益の10%にも満たない。分け前が小さすぎる。
しかもクリエイティブ上の判断は、ディズニーのそれが優先される。ディズニー以外の仕事をピクサーがすることもできない。これではとても会社として独り立ちできない。累積赤字5000万ドル、利益なし、成長なし、ディズニーに首根っこを押さえられている。上場などありえないという有様だった。
それでも事業計画を立てなくてはならない。実現の可能性がどれほど小さくても、ロードマップは必要だ。考えたのは次の4つである。
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