コミュニケーションにおいては、「傾聴」が大切だと言われる。では、そもそも傾聴する目的とは何だろうか。それは、相手と心を通わせ、相手の伝えたいことを枠組みや温度そのままにキャッチすることだ、と著者は考える。
その目的を達するためには、まず相手の描いている世界に自分が入る必要がある。もちろん相手と自分は違う人間なので、相手の言うことのすべてに賛成することは難しい。しかしまずは自分との「違い」を「違い」のままとらえ、相手の言うことを正しく理解しようと努力してみよう。ただあいづちを打つだけでなく、「それってこういうことですか?」と尋ねたり、「その話くわしく聞かせていただけますか?」とお願いしたりするといい。そうやって、自分が少しでも共感できるポイントを探していくのだ。
こちらがそういう姿勢で相手と接すれば、「相手と合わない」というストレスは減る。相手も本音を出しやすくなるので、結果としてお互いに理解しようと歩み寄ることができる。
「ラポールスキル」という言葉がある。「ラポール」はフランス語で「橋を架ける」を意味する。つまり、人と人とが信頼関係を結ぶためのスキルのことだ。
傾聴の場面において使えるラポールスキルに、たとえば「ミラーリング」がある。鏡写しのように、相手の表情やしぐさをまねるという方法だ。人の話を聞くときに、「気の利いた返し」をするのは簡単ではないが、「ミラーリング」ならすぐに意識して取り入れることができる。
身振りや手振りのミラーリングより、表情のミラーリングがおすすめだ。相手が楽しそうなら笑顔で、相手が辛そうなら同じく眉根を寄せて共感する表情で、話を聞く。表情をミラーリングするだけで、言葉を尽くさずとも相手との心の距離が縮まる。ANAやディズニーランドのような、一日に何百人もの顧客と短時間で接する職場で、表情のミラーリングは非常に有効だったという。
また、「ペーシング」というラポールスキルもある。相手の話し方や呼吸といったペースに、自分の話し方や呼吸を合わせていくのだ。とくに、トーンを合わせていくことは効果的である。うれしい話をするとき、相手は高く響く声を出す。そうしたとき、棒読みであいづちを打つのでなく、「そうなんだ!」と明るい声で返すのだ。逆に相手が悲しい話をしているときには、こちらも静かな調子であいづちを打つ。声の表情を合わせるだけで、相手との距離を縮めることができる。
「ありがとう」という言葉は、笑顔で、目を見て伝えることがまず基本中の基本だ。その上で、「○○さん」と相手の名前を呼び、何に対しての感謝なのかを伝えるようにするとよい。
著者の場合、接客業を経てジャパネットたかたの総務に勤めることになり、それまでなかったビジネスメールのやりとりが急に増えた。対面でない状況でも、感謝の気持ちがより伝わるようにと考えたのが、前述の「誰に」「何を」という要素をプラスして感謝するという方法だ。たとえば、ただ「ありがとうございます」と伝えるのでなく、「○○さん、早急にご返信いただき、ありがとうございます」と伝える。相手が納期の短いものに対応してくれたなら、「お忙しい中ご対応いただき、誠にありがとうございました」と明確に表現する。こうすることで、文章だけでも、気持ちのこもったやりとりをすることができる。
「ごめんなさい」「すみません」「失礼しました」「申し訳ございません」――謝罪の言葉はいろいろある。
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