著者は43歳のとき、青山学院大学(以下、青学)の入試を受けることにした。勉強期間はたった180日、偏差値は32しかなかった。
「学歴コンプレックスでもあったの?」と思う人もいるかもしれないが、決してそうではない。著者が持っていたのは「学歴」コンプレックスではなく「勉強」コンプレックスだった。高校に進学せず、芸人の道を目指したため、今までほとんど勉強をしてこなかったのだ。当時は、芸能界で生きていくために勉強が必要だとは思えなかった。
大人になるにつれ、知識があるほど思考や思索は深くなるし、語彙力があれば自分の思いをきちんと伝えられると気づいた。だが「生きていけるし、稼げているからいいや」「学ぶ目的がないから」と、学ぶことを先送りしてしまっていた。
40代を超えると、法学を学んでみたいという思いが芽生えた。きっかけは、コンプライアンスによってメディアのあり方が変わってきていると気づいたこと。「文句を言われないように」「炎上しないように」という恐れから自主規制が入り、クリエイティブがしぼんでいるように感じられた。ルールとはどんなもので、その範囲はどこなのか。それがわからないかぎり、自分が動き回れる範囲も見えてこないと気づいた。勉強への意欲と勉強コンプレックスがつながった瞬間、著者は即動していた。
青学挑戦が報じられたとき、きっと世間は「イメージで大学を選んだだろう」と思ったに違いない。しかし著者が青学を選んだのは、青学に魅力的な先生がいたからだ。批判も多かったが、まったく気にしなかった。学びたい想いがあるのだから、即動を止める必要はない。
青学の法学部をはじめとし、5回の入試に挑戦した。過去問では合格点に到達したこともあったが、結果はすべて不合格だった。
合格発表は、テレビカメラの前で迎えた。テレビの前では気持ちを表現できなかったが、家に帰って一人になった途端に悔しさが押し寄せてきた。シャワーを浴びながらただ泣いた。
結果を受けとめたらグズグズせず、未来に向かうべきだ。悔しさと向き合ったのは、シャワーを浴びていたその一瞬だけだった。シャワーから出ると、スマホを手に取って「大学 今から 受験」と検索。今から行ける大学を探し始めた。青学に落ちた6時間後、「慶應義塾大学 通信教育課程」の存在を知った。
慶應義塾大学法学部の通信課程の入試課題は、3つの論文だった。テーマは「志望動機」「なぜ法学を学びたいのか」「最近読んだ法律関連の本で、あなたが感じたこと」。すぐに論文を書いて送り、合格することができた。
実は、通信課程の卒業率はたったの3%だ。単位を取りたい科目のレポートを提出しないと、テストが受けられないシステムだからだ。テストの日のスケジュールを空け、レポートを書かないと、単位はもらえない。多忙な著者に、スケジュール確保という高い壁が立ちはだかった。
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