本書の中心テーマは、現在および将来の「金融パーソンのあり方」である。ただしそれを理解するには、いま金融業界で何が求められているのかを知らなければならない。
まず金融業界を取り巻く環境変化の解説から本書は始まる。日本の金融機関は長らく護送船団方式による行政の強い指導・監督下にあった。これは「個人の日常生活、企業の経済活動を支える金融機関はつぶせない」という認識が、多くの日本人にあったからである。
しかしその後グローバリゼーションを迎え、日本の行政はもはや金融機関だけを守るわけにはいかなくなった。金融機関にとってそれは、護送船団方式の下で同じ方向を進むという考え方から脱却しなければならなくなったことを意味する。それ以前の金融機関は、行政によって引っ張られ、ひたすら営業成績を競う営業会社としての意識が強かった。しかしそうした状況からの変革が求められるようになったのだ。
一方で社会環境を見ると、いまやデジタル化の進展によって、お客さま、商品・サービス、流通など、世の中の構造と仕組みが急速に変わってきている。これまで考えも及ばなかった相手が競争相手になり得るほど、競争環境が激変していといえよう。たとえば自動車メーカーの将来の競争相手は、グーグルかもしれないのである。
そんな時代におけるマーケットの主役はお客さまだ。すべてはお客さまが決める。それは金融機関であっても例外ではない。金融機関もお客さまとの信頼関係を強化し、お客さまを味方にするための「お客さま本位」の運営をしない限り、生き残ることは難しくなっていくだろう。
金融業界全体が激変するなか、日本の銀行もいまの時代に合った形に再構築することが求められる。
日本の銀行はメガ銀行、第一地方銀行、第二地方銀行に分けられ、その他に信用金庫、信用組合、各種産業の商業銀行がある。「借り手が資金調達をどこから行うか」といった役割分担の観点から、この形に整理されたのだろう。
しかし現在もこのとおりに借り手と貸し手がきれいに分かれているかといえば、けっしてそんなことはない。たとえば北海道の信用金庫のお客さまに、メガ銀行が融資することもある。かつての役割分担はすでに崩壊しているわけで、それを大変革期の現在も維持することは不自然だ。
また銀行はこれまで「地域密着営業」「顧客密着営業」のサービスを展開してきた。一定の地域に店舗を構え、担当地域のお客さまに数多く定期訪問することが重要だとされていたからである。しかし「お客さま本位」のこの時代に重要なのは、お客さまとの接点の質と内容だ。
いま銀行はリテール(個人顧客営業)において、お金をもっている高齢者ばかりを相手にしているが、遺産相続という形で今後お客さまの流れはどんどん変わっていく。20代、30代、40代と世代を超えた顧客情報管理などを通して、お客さまとの接点や付き合い方を根本的に変えていくことが望まれる。
一方でホールセール(法人顧客営業)においても、銀行は預金や貸出の金額、また財務三表といった銀行側のフィルターを通してしか企業を見ていないのが実態だ。地域や顧客に密着するというのなら、その地域特有の問題や課題をいち早く把握し、一社一社が何に困り、何を望んでいるのかを聞いて、その解決を身近でサポートするトータルコンサルタントになるべきであろう。
保険業界も大きな変化に直面している。
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