丹羽宇一郎 習近平の大問題

不毛な議論は終わった。
未読
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丹羽宇一郎 習近平の大問題
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2018年12月27日
評点
総合
3.5
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

自分が暮らしたり、仕事をしたり、旅行にすら行ったことのない国について考えるとき、そのほとんどは「どこかで聞いたことがある」程度の情報でしかイメージできないだろう。その程度の情報をもとに自分の主張を述べても、根拠は薄弱で、説得力は持ちえない。

それは中国であっても同じことだろう。しかし難しいのは、日本にとって中国はまさに隣近所の国で、欧米諸国などと比べると似ているところも多いから、イメージだけはしやすいことである(正しいか、間違っているかは別にして)。だからたとえ行ったことはなくても、巷に流れる情報だけで、なんとなく「知っている」と錯覚する国ではないだろうか。

本書をお読みいただくと、自分がまさにそんな錯覚をしていることに気づかされるだろう。共産党独裁、海洋進出、一帯一路構想など、中国はよく、日本にとって対峙すべき脅威の文脈で語られる。もちろんそれを完全には否定できないが、脅威だけが増幅すると、実態からかけ離れたイメージだけが膨らんでいく。そしていつの間にか、相手を敵としてしか見られなくなる。これは、かつての日本が戦時中に経験したことではないか。

それを避けるには、イメージではなく、実際に見て、聞いて、感じて、中国を深く理解することだろう。もちろんそれでも人によって見方は異なるかもしれないし、誰にでもできることではない。だが著者は実際に、習近平氏と何度も会ったことがある数少ない人物である。実物大の中国を少しでも知ろうとするならば、きっと参考になる一冊だ。

ライター画像
三浦健一郎

著者

丹羽 宇一郎(にわ ういちろう)
1939年、愛知県生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。1998年、社長に就任。1999年、約4000億円の不良資産を一括処理し、翌年度の決算で同社史上最高益(当時)を記録。2004年、会長に就任。内閣府経済財政諮問会議議員、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任し、2010年、民間出身では初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長、早稲田大学特命教授、伊藤忠商事名誉理事。著書に、『丹羽宇一郎 戦争の大問題』(東洋経済新報社)、『人は仕事で磨かれる』(文藝春秋)、『死ぬほど読書』(幻冬舎)、『中国の大問題』『日本の未来の大問題』(共にPHP研究所)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    習近平が掲げるテーマは「中華民族の夢」だ。また国内的には、反腐敗運動を進めるとともに、八大元老による長老支配を一掃しようとしている。
  • 要点
    2
    習近平の対外政策は、より広い地域を手中に収めることが狙いだと受け止められていることが多い。しかしその見方は正しくない。目指しているのはアジア諸国との共存共栄である。
  • 要点
    3
    中国の大問題として挙げられるのは、信用のおけない国内の統計数字および金融市場の自由化だ。いずれ民主化していくのは必然の流れだが、これは人類史上初の挑戦となる。

要約

習近平の目ざす「中華民族の夢」

中華民族の夢
roibu/gettyimages

本書の主役、習近平氏は1953年生まれ(本書執筆時65歳)で、中国共産党中央委員会総書記、国家主席、国家中央軍事委員会主席の三権を掌握する、名実ともに中国の最高指導者である。本人と十数回は会ったことのある著者によると、彼は人間的には口数少なく温和、弱者の気持ちを理解できる人物だ。

そんな習近平は、どのような狙いをもって中国を率いているのか。中国国内の政策における彼の狙いを明らかにすることから本書は始まる。

まずは「中華民族の夢」の実現だ。習近平はこれを、主席就任演説においても繰り返し宣言している。

中国は19世紀から20世紀の前半にかけて、諸外国からいろいろなものを奪われた。香港をイギリスに奪われたことに始まり、ロシア、日本、ドイツ、フランス、アメリカが中国に進出してきた。自分の国なのに主権がないという屈辱。そんな屈辱を味わった中華民族に、誇りと大国の地位を取り戻させる試みが「中華民族の夢」だ。この試みが成功すれば、中国人の深層心理にある敗北感、劣等感を払拭することができるだろう。

反腐敗運動

中国では、習近平の人気は高い。その理由のひとつは、国民の生活が向上しつつあるから。もうひとつは、反腐敗運動が国民の支持を得ているからだ。

汚職や腐敗が蔓延している中国では、国有公社の粉飾会計でさえ、役人への賄賂によって目こぼしされている事実がある。このようにして地方の公社は、不良資産となっていった。

その負債金額を合算すれば、成長の足を引っ張る大きな重荷にさえなりえるだろう。この状況を改善しない限り、中国の近代化はない。

一方で反腐敗運動は、習近平による権力強化を目的とする、粛清の観点から語られることも多い。完全には否定できないが、権力を掌握する目的だけで粛清を続けているという見立ては、賛同できるものではない。単なる権力欲だけの人物に、そこまでする覚悟があるはずもないだろう。

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要約公開日 2019.04.08
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