本書の主役、習近平氏は1953年生まれ(本書執筆時65歳)で、中国共産党中央委員会総書記、国家主席、国家中央軍事委員会主席の三権を掌握する、名実ともに中国の最高指導者である。本人と十数回は会ったことのある著者によると、彼は人間的には口数少なく温和、弱者の気持ちを理解できる人物だ。
そんな習近平は、どのような狙いをもって中国を率いているのか。中国国内の政策における彼の狙いを明らかにすることから本書は始まる。
まずは「中華民族の夢」の実現だ。習近平はこれを、主席就任演説においても繰り返し宣言している。
中国は19世紀から20世紀の前半にかけて、諸外国からいろいろなものを奪われた。香港をイギリスに奪われたことに始まり、ロシア、日本、ドイツ、フランス、アメリカが中国に進出してきた。自分の国なのに主権がないという屈辱。そんな屈辱を味わった中華民族に、誇りと大国の地位を取り戻させる試みが「中華民族の夢」だ。この試みが成功すれば、中国人の深層心理にある敗北感、劣等感を払拭することができるだろう。
中国では、習近平の人気は高い。その理由のひとつは、国民の生活が向上しつつあるから。もうひとつは、反腐敗運動が国民の支持を得ているからだ。
汚職や腐敗が蔓延している中国では、国有公社の粉飾会計でさえ、役人への賄賂によって目こぼしされている事実がある。このようにして地方の公社は、不良資産となっていった。
その負債金額を合算すれば、成長の足を引っ張る大きな重荷にさえなりえるだろう。この状況を改善しない限り、中国の近代化はない。
一方で反腐敗運動は、習近平による権力強化を目的とする、粛清の観点から語られることも多い。完全には否定できないが、権力を掌握する目的だけで粛清を続けているという見立ては、賛同できるものではない。単なる権力欲だけの人物に、そこまでする覚悟があるはずもないだろう。
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