世界有数の大富豪であり、「パブリックヘルス(公衆衛生)」の分野で慈善家として大活躍しているビル・ゲイツ。彼の最近の活動をご存知だろうか。
2003年、ビル・ゲイツは「もし解くことができれば、世界の健康課題を劇的に解決する問題(グランド・チャレンジ)」を発表した。その1つに、「気持ちよくて誰もが使いたくなるコンドームの開発」が挙げられた。性感染症の問題解決に寄与するアイディアを募集するというのだ。
ビル・ゲイツが課題意識を持っているのは、「重要であるのに市場に任せていては問題解決に至らない問題がある」という事実である。「グランド・チャレンジ」の提示は、才能のある人々を呼び込むことに役立つのだ。
1981年、ロサンゼルス在住のある男性が、史上初めてエイズと診断された。その後10年足らずで、エイズは世界中に広まった。特に悲惨な状況だったのはブラジルだ。世界銀行の研究員たちは、やむを得ず、感染者を見捨ててでも予防に注力すべきだと主張した。
しかし、ブラジルはその「正解」に飛びつかず、問いを立てた。「誰一人、見捨てないためには、どうすればいいのか」。その後、国を挙げて治療薬を無料で配布。人々に検査を促し、予防の知識を国中に広めていった。その結果、感染率はわずか0.6%となり、エイズと戦う発展途上国の見本となった。
物事の本質を見極めるためには、「例外」に着目して帰納法を用いることが有効となる。1990年、ベトナムでは、約3分の2の子どもたちが低栄養に苦しんでいた。この状況を改善するために、「セーブ・ザ・チルドレン」から派遣されたジェリー・スターニンは現地に降り立った。スターニンは、ベトナム政府に歓迎されておらず、6ヶ月で成果を出さなければ帰国してもらうと告げられる。
一見すると低栄養の原因は貧困であり、6ヶ月で解決することはほぼ不可能に思えた。しかし、スターニンは、「非常に貧しい家庭にいるのに栄養状態が良い子ども」という、例外的な事例に着目した。そこから「食事の前に手を洗っていた」「水田でとれるエビやカニを食べていた」という、共通する法則を見出したのだ。こうした知見をもとに、母親向けの2週間のプログラムを作成・実施した。すると、劇的な効果が見られ、プログラムはベトナム全土に広がり、2年間で低栄養は85%も減少したのだった。
世の中には、2種類のタイプがいる。1つは、すでに得られている定説を参照して答えを求める「では派」である。それに対して、「△△とは何か?」と問い続ける人たちは、「とは派」と定義される。もちろん、どちらがより優れているかという話ではない。だが著者は、どういう生き方をしたいかと自問し、「とは派」になりたいと心に決めた。
著者は、ある著名な物理学者の言葉に感銘を受けたことがある。「イノベーションの種となる適切な問いは、『大きな視点』と『小さなディテール』を高速で行ったり来たりすることでしか生まれない」
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