自分が幸せになりたいと願っても、幸せに到達するにはさまざまな障壁がある。歪んだ感情や思考、歪んだ判断力などだ。これらの壁をうまく乗り越えられないまま無理に幸せを求めれば、むしろ遠ざかっていく。「適度な自己愛、所有欲、判断力のもと、さまざまな怒りの気持ちや嫉妬心を抑えながら、歪みの壁を少しずつ乗り越えて」いかなければならない。ここでは幸せの前に立ちはだかる壁を、怒り、嫉妬、自己愛、所有欲、判断の5つと想定し、そこに潜む歪みについて考える。
まず、怒りの歪みだ。怒りを鎮めたり理解して制御したりするアンガーマネージメントのような方法論を多く目にするが、これは怒りをよくないものとして捉える考え方だ。しかし、人種差別に対する正義の怒りなどのように、ときには怒りも必要だ。ただし、理性的でいられなくなるほど怒りに支配されてしまうと、歪んだ幸せにつながってしまう。怒りには適切なものと有害なものがある。有害な怒りを区別し、自覚することは、怒りの歪みを乗り越えるために有用だ。
次に嫉妬の歪みだ。「嫉妬心自体は人として自然な反応」だが、度が過ぎると好ましくない状況に陥る。SNSの普及により、「本来であれば知らずに済んだ他者の情報」に接する機会が増え、これがさらに身近な誰かへの嫉妬を生み出しているかもしれない。
ただし、認知機能が弱っていると嫉妬心すら起きないこともある。他者のほうが自分より優位であることを理解できないからだ。勉強が苦手だけれどそのことを気にもとめていなかったある子どもが、とあるトレーニングを進めるにつれて周囲に対する理解力がつき、成績のいい友人の存在に気づいて、自分のできなさを悔しがるようになったという。勉強に対するモチベーションになったという意味で、いい嫉妬心が生まれた、というわけだ。
また、「自己愛が強すぎる場合」も嫉妬心は生まれない。「自分は特別であり、逆に他者から嫉妬される存在だと思い込んでいるケース」だ。この自己愛の歪みも、極端になれば幸せを遠ざけてしまう。
自己愛には「誰もがもつ正常な心理学的機能」としてのものと、「自己愛性パーソナリティ障害に代表される病的な意味合い」の2つがある。米国精神医学会による精神疾患の診断分類DSM-5によると、自己愛性パーソナリティ障害の診断基準となる状態として、「自分が重要であるという誇大な感覚」「対人関係で相手を不当に利用する」「共感の欠如」「しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む」など9つの項目が挙げられている。こうした特徴が当てはまる数や程度によって障害と診断される。しかしその基準には該当しないグレーな状態であっても、必要以上の自己主張や利己的な権利意識、際限のない富の追求などの不適切な行動につながる可能性があることを認識しておかなくてはならない。
所有欲も適度であれば正常だが、度を過ぎれば歪んだ幸せと結びつく。人が持っているものを妬み、必要以上に見せびらかしたり、奪ったりする。成人の刑法犯の多くを占める窃盗のような犯罪は、身勝手な所有欲に翻弄された結果だ。そうした罪を犯さないまでも、投資の失敗やカジノでの散財などにはじまる、所有への過剰な執着が引き起こした悲劇もある。
怒り、嫉妬、自己愛、所有欲という歪みを背景に最終的に表れるのが、「判断の歪み」である。ここでの判断とは、「得られた情報から状況を認識し、評価・決断する力」を指す。
直接的に判断を歪ませる要因には、「認知機能」「情動」「思考」「行動」「固定観念」といったものがある。
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