歪んだ幸せを求める人たち

ケーキの切れない非行少年たち3
未読
歪んだ幸せを求める人たち
歪んだ幸せを求める人たち
ケーキの切れない非行少年たち3
未読
歪んだ幸せを求める人たち
出版社
出版日
2024年07月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は、ベストセラーシリーズである『ケーキの切れない非行少年たち』の第3弾である。1作目では困難を抱える非行少年たちの背景が描かれ、続く2作目ではその支援方法について述べられた。そして本書では、そもそも歪んだ方向へ進んでいかないためにどうすればいいか、また、歪んでしまったらどう立て直せばいいかがまとめられている。

非行少年たちが罪を犯してしまう根本にも「幸せになりたい」という思いがある、と著者は語る。問題なのは、それを実現する適切な方法を選べないことだ。たとえば、「自殺したいけど、自分が死んだらおばあちゃんが悲しむだろう」と考える過程で、「かわいそうだから、おばあちゃんを先に死なせてあげよう」という行動に出てしまうのが、著者の主張する「歪み」である。

犯罪行為には至らずとも、こうした「歪み」を抱える人はたくさんいる。すぐにマウントを取りたがる人、自分が正しいと思って人の意見に耳を貸さない人など、覚えがある人は多いだろう。そこには怒り、自己愛、嫉妬、所有欲、判断の5つの歪みが潜んでいるのだという。本書では、歪んだ幸せを求めてくる相手、あるいは歪んだ幸せを求めてしまう自分自身とどう向き合えばいいか、その解決法が述べられている。

周囲に困った人がいる場合だけでなく、ちょっとした生きづらさを感じているなら、ぜひ本書を手に取ってほしい。自分と相手の中にある「歪み」を知ることは、楽に生きるためのヒントになるだろう。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

宮口幸治(みやぐち こうじ)
立命館大学大学院人間科学研究科教授。医学博士。精神科病院、医療少年院での勤務等を経て現職。著書に『ケーキの切れない非行少年たち』等。

本書の要点

  • 要点
    1
    人の行動の根本にあるのは、「幸せになりたい」という思いだ。これは事件を起こした非行少年たちも同じである。問題は幸せを求める方法が歪んでいることだ。その歪みは怒り、嫉妬、自己愛、所有欲、判断の5つの中に生まれる。
  • 要点
    2
    トラブルは自分のストーリーと相手のストーリーとのぶつかり合いによって生じる。相手のストーリーを知り、自分のストーリーを見直すことで歪みの壁を克服できる。

要約

【必読ポイント!】 幸せの前にある5つの歪み

誰もが幸せを求めている

自分が幸せになりたいと願っても、幸せに到達するにはさまざまな障壁がある。歪んだ感情や思考、歪んだ判断力などだ。これらの壁をうまく乗り越えられないまま無理に幸せを求めれば、むしろ遠ざかっていく。「適度な自己愛、所有欲、判断力のもと、さまざまな怒りの気持ちや嫉妬心を抑えながら、歪みの壁を少しずつ乗り越えて」いかなければならない。ここでは幸せの前に立ちはだかる壁を、怒り、嫉妬、自己愛、所有欲、判断の5つと想定し、そこに潜む歪みについて考える。

まず、怒りの歪みだ。怒りを鎮めたり理解して制御したりするアンガーマネージメントのような方法論を多く目にするが、これは怒りをよくないものとして捉える考え方だ。しかし、人種差別に対する正義の怒りなどのように、ときには怒りも必要だ。ただし、理性的でいられなくなるほど怒りに支配されてしまうと、歪んだ幸せにつながってしまう。怒りには適切なものと有害なものがある。有害な怒りを区別し、自覚することは、怒りの歪みを乗り越えるために有用だ。

嫉妬と自己愛、所有欲
101dalmatians/gettyimages

次に嫉妬の歪みだ。「嫉妬心自体は人として自然な反応」だが、度が過ぎると好ましくない状況に陥る。SNSの普及により、「本来であれば知らずに済んだ他者の情報」に接する機会が増え、これがさらに身近な誰かへの嫉妬を生み出しているかもしれない。

ただし、認知機能が弱っていると嫉妬心すら起きないこともある。他者のほうが自分より優位であることを理解できないからだ。勉強が苦手だけれどそのことを気にもとめていなかったある子どもが、とあるトレーニングを進めるにつれて周囲に対する理解力がつき、成績のいい友人の存在に気づいて、自分のできなさを悔しがるようになったという。勉強に対するモチベーションになったという意味で、いい嫉妬心が生まれた、というわけだ。

また、「自己愛が強すぎる場合」も嫉妬心は生まれない。「自分は特別であり、逆に他者から嫉妬される存在だと思い込んでいるケース」だ。この自己愛の歪みも、極端になれば幸せを遠ざけてしまう。

自己愛には「誰もがもつ正常な心理学的機能」としてのものと、「自己愛性パーソナリティ障害に代表される病的な意味合い」の2つがある。米国精神医学会による精神疾患の診断分類DSM-5によると、自己愛性パーソナリティ障害の診断基準となる状態として、「自分が重要であるという誇大な感覚」「対人関係で相手を不当に利用する」「共感の欠如」「しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む」など9つの項目が挙げられている。こうした特徴が当てはまる数や程度によって障害と診断される。しかしその基準には該当しないグレーな状態であっても、必要以上の自己主張や利己的な権利意識、際限のない富の追求などの不適切な行動につながる可能性があることを認識しておかなくてはならない。

所有欲も適度であれば正常だが、度を過ぎれば歪んだ幸せと結びつく。人が持っているものを妬み、必要以上に見せびらかしたり、奪ったりする。成人の刑法犯の多くを占める窃盗のような犯罪は、身勝手な所有欲に翻弄された結果だ。そうした罪を犯さないまでも、投資の失敗やカジノでの散財などにはじまる、所有への過剰な執着が引き起こした悲劇もある。

判断を歪ませる要因
liebre/gettyimages

怒り、嫉妬、自己愛、所有欲という歪みを背景に最終的に表れるのが、「判断の歪み」である。ここでの判断とは、「得られた情報から状況を認識し、評価・決断する力」を指す。

直接的に判断を歪ませる要因には、「認知機能」「情動」「思考」「行動」「固定観念」といったものがある。

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要約公開日 2024.10.17
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