睡眠不足は軽視されがちだが、実は病気の一種であり、「行動誘発性睡眠不足症候群」という名前もついている。睡眠不足になると、脳のパフォーマンスが下がるだけでなく、うつや糖尿病、高血圧、認知症、がんといった疾患リスクが上昇するなど、心身に深刻なダメージが生じる。
睡眠不足の基準の一つとなるのは、休日に平日より2時間以上長く寝ていることだ。これに当てはまる人は、慢性的な睡眠不足である「睡眠負債がたまっている」状態の可能性が高い。身体は規則正しいリズムを好むため、不規則な睡眠パターンが生じると体内時計が乱れ、さらに睡眠の質が低下し、健康リスクが高まってしまう。普段から十分な睡眠を確保しつつ、休日も平日も同じ時間に寝起きする習慣をつけたいものだ。
平日と休日の睡眠中央時刻(就寝時刻と起床時刻の中間の時刻)がずれると、いわゆる「時差ぼけ」の状態になってしまう。休日に長く寝るなら、その分就寝時刻も早めて、睡眠中央時刻がずれないように心がけよう。平日の睡眠中央時刻との差が1時間以内になるよう意識するといいだろう。
睡眠不足は、翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼす。慶応大学の調査では、従業員の睡眠時間が長い企業ほど利益率が高いことがわかっている。また、経済産業省の報告によると、社員1人あたりの休養・睡眠不足による年間の損失は約33万円にのぼる。肥満による損失が約3万円、運動不足による損失が約3万5000円であるのに比べると、その大きさがわかるだろう。
睡眠を十分にとると、心身ともに健康な状態に近づくだけでなく、より効率的に仕事をこなせるようになり、生産性が高まる。また、創造性が向上するため、新しいアイデアやイノベーションを生み出しやすくなる。一方、睡眠不足になると、コミュニケーション力や理解力が低下したり、ささいなことでイライラしやすくなったりすることがわかっている。
休日にたくさん眠るなどしても、睡眠を余分にため込むことはできない。睡眠不足のときにたくさん眠るのは、単に睡眠負債を返済しているだけだ。
また睡眠負債は、週末の寝だめだけでは完全には返済できない。少し返せたとしても、平日の睡眠が1時間でも足りなければ、借金は膨らみ続けるいっぽうだ。
では、どのくらい眠ればいいのか。今の自分に必要な睡眠時間を調べる方法は2つある。
1つ目は、就寝時刻を30分早める方法だ。これを2~3日試して身体の調子がよければ、寝る時間をさらに15分早めてみよう。このサイクルを繰り返すことにより、あなたにとって十分な睡眠時間に近づいていく。
2つ目は、4日間続けて目覚まし時計をかけずに寝る方法だ。1日目の晩は、睡眠負債を返すために通常よりも長く眠ることになるだろう。だが、徐々に睡眠時間が短くなり、4日目にはある一定の時間以上は眠れなくなる。それがあなたにとって十分な睡眠時間だ。
万人に通用する「睡眠の質を高める方法」は存在しない一方で、睡眠の質を下げる方法は非常に明確だ。それゆえ、よい睡眠をとるには、悪い部分を改善するのが一番の近道である。なお「よい睡眠」とは、朝すっきり目覚めて、ぐっすり眠れたと感じられることだ。
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